第九話「船上の戦い」


間一髪でシンクから逃れ未来達は

バチカル行きの船に乗ることができた。

「ここまで来れば、追ってこないわね」

未来は、だんだん小さくなるシンクを見た。

「くそ…書類の一部を無くしたみたいだな」

ガイは悔しそうに書類を見た。

「見せてください」

ジェイドはガイから

無くしたけれど十分多い書類を受け取った。

「これは…同位体の研究のようですね」

読みながらジェイドは言った。

「同位体?まったくわからないぜ」

ルークはいつものように、全員に聞いて

一人一人が同位体について説明してあげた。

みんなが知っていることを知らないルークは

不満そうだった。

「仕方ないわ。これから知ればいいのよ」

ティアは安心させるようにルークに微笑んだ。

「なんか…ティアってば

突然ルーク様に優しくなったね」

「そ、そんなことはないわ。

ところで同位体は兵器に転用できるので

軍部は注目しているのよ。

そうでしょう、未来」

ティアは慌てて説明を再開した。

「ええ。特にマルクト軍は、ね」

未来が言ってたことは真実だった。

「昔研究されてたっていう

フォミクリーって技術なら

同位体を作れるんでしょ?」

「それは私は知らないけれど

フォミクリーはマルクトで開発されたそうよ」

未来が説明すると

なぜかイオン様とジェイドが苦い顔をした。

(あれ?)

そのジェイドの顔を

未来は見たことがあった。

コーラル城で謎の譜業を見たとき…

そして船でルークにおかしな質問をしたとき…

(フォミクリーと関係があるのかな?)

未来はそう気がついたが

人の憶測はよくないと、考えるのをやめた。

「難しい話はやめようぜ。

その書類はジェイドが…」

そうルークが言いかけた時

キムラスカ兵が部屋に飛びこんできた。

「た、大変です!

ケセドニア方面から多数の魔物と

正体不明の譜業反応が!」

そう言い終わるのを待っていたかのように

神託の盾兵が二人、部屋に入ってきた。

そのまま戦闘になり

最後のとどめを刺したのは

人間を斬るのを怖がっていたルークだった。

「手段を選んじゃいられないんだ」

そう言ってルークは

辛そうな顔で剣をしまった。

「ルーク…成長したわね」

「な…そんなこと言ってる場合じゃねーだろ!」

未来のほめ言葉に

ルークは照れているようだった。

「やっぱりイオン様と親書を

キムラスカに届けさせまいと?」

「もしかして、船ごと沈めるつもり?」

未来は警戒したが

「しかし水没させるつもりなら

突入してこないでしょう」

ジェイドが最もな事を言って

ひとまず安心させた。

「制圧される前に船橋を確保しろってか?」

「そういうことです」

口々にそう言って、全員が武器を持ち

部屋を出ていく。

「私の予感が的中しなければいいのですが」

ぽつりと言ったジェイドの独り言は

誰にも聞こえなかった。


甲板に着いたが、そこには誰もいなかった。

「敵のボスはどこにいるんだよ!

とっとと終わらせようぜ」

ルークがそう言った時だった。

「ハーッハッハッハッハ!」

頭上から傲慢そうな声が聞こえてきた。

見ると男がイスに座り、空中に浮いていた。

「野蛮な猿ども、とくと聞くがいい。

美しき我が名を。

我こそは神託の盾兵六神将・薔薇の…」

「おや、鼻垂れディストじゃないですか」

ディストが名乗る前に、ジェイドが呼んだ。

「薔薇!ばーら!薔薇のディスト様だ!」

ディズトはイスから落ちそうなほど

地団駄を踏んだ。

「死神ディストでしょ」

「黙らっしゃい!

そんな二つ名、認めるかぁっ!」

なおも否定するディストは子供のようだった。

「二人とも、知り合いなの?」

「私は同じ神託の盾騎士団だから…

でも大佐は?」

未来に聞かれたアニスは、ジェイドを見た。

「そこの陰険ジェイドは

この天才ディスト様のかつての友」

「どこのジェイドですか?そんな物好きは」

ディストに指さされたジェイドは

とぼけている様子だった。

「何ですって!?」

「ほらほら。怒るとまた鼻水が出ますよ」

「キィーーーーーー!!出ませんよ!」

ディストとジェイドのやり取りに

みんな…特にルークとガイが呆れた。

「…まあいいでしょう。

さあ、音譜盤のデータを出しなさい!」

「これですか?」

言われた通りにジェイドは書類を見せて

ディストがそれを素早く奪った。

「ハハハッ!油断しましたねぇジェイド!」

ディストが勝ち誇ったように笑ったが

「差し上げますよ。

その書類の内容は、すべて覚えましたから」

ジェイドは全く悔しくなかった。

「ムキーーーーーー!!

猿が私を小馬鹿にして!」

ディストは再び怒り出す。

「この私のスーパーウルトラゴージャスな

技を食らって、後悔するがいい!」

ディストがそう言うと

巨大な譜業が船上に出現した。

ルークとガイが剣で攻撃をするが

機械のため傷すらつけられない。

「ならば!」

「これはどうですか?」

未来とジェイドが微笑みあい

「「荒れ狂う流れよ!スプラッシュ!!」」

二人の詠唱が重なり

大量の水が譜業に降り注いだ。

水に弱い譜業は壊れ

その衝撃でディストは海へ落下した。

「おい…あれ…」

「殺して死ぬような男ではありませんよ。

ゴキブリ並の生命力ですから」

ルークが心配したが

ジェイドはディストが落ちた海に背を向けた。

「それより船橋を見てきます」

「俺も行く。

女の子達はルークとイオンのお守りを頼む」

ジェイドが船橋へ向かい

ガイも後を追おうとした。

「あれ?

ガイってば、もしかして

私達が怖いのかな?」

しかし、アニスがガイの背後に回り

「それは、ひどいわね」

未来も、笑いながらガイに近づいた。

「ち、違うぞ。違うからなっ!」

当然ガイは震えて

逃げるように船橋へ走って行った。

「私達は怪我をしている人がいないか

確認しましょう」

「平和の使者も大変ですよねぇ」

「ホントだよ」

未来の指示に

そうアニスとルークはこぼしたが

船は、まもなくバチカルに到着する頃だった。


to be continued

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