今宵、あなたに会うために
私は今日まで生きてこられたのです。




それは夏の初め、まだ心地よい風の吹く夜のお話。
光り輝く天の川を前に一人の美しい少女は
小さくため息を漏らした。


「何で、約束の時間を過ぎても来ないのよ。」


まとったキレイな衣に似合わず浮かない表情を浮かべる少女は
その場にしゃがみ込むと川の水を手ですくった。


水はキレイで透き通っていて
少女の指をすり抜けるように落ちると
光に反射しキラキラと光を放つ。


少女はその果てしなく広い川を見据えると
また一つため息を漏らした。


どんなに目を凝らしても
向こう岸を見ることは出来ないのだ。
いったいどのくらいの距離があるのだろうか
そんなことここから離れたことのない少女には分かる由もなかった。


この川を隔てたこの町に、少女はまるで隠されるように住んでいる。
決められた者以外の目に触れることもなく
必要以上の外出も許されず
愛しい人にすら会うことが出来ない。


それが、この自分の運命だと彼女は半ば諦めていた。


しかしそんな少女も1年でたった1度だけ
愛しき人に会うことを許されているのである。
そして少女は今日この場所で、愛しき人と会う約束をしていた。


『君は川の向こうで待っていてくれれば、それでいい。
僕があの川を渡り、君に会いに行くからね。』


あなたからの文にはそう綴られていたけれど…
「こんな大きな川を乗り越えるのだもの。
途中で力尽きてしまっていたら…
川に住む魔物に襲われていたら…」


そう思うと、居てもたってもいられなくなった少女は
立ち上がるとその場を行ったり来たり歩き回った。
そして思わず瞳からは一粒の涙がこぼれ落ちるほどだった。
その涙はまるで宝石のように光輝きながらその川に落ち、川の輝きが増す。


そんな時だった…。


「君を泣かせてしまうなんて
僕もちっちぇえ男だな。」


突然辺りに響いた声に、少女は慌てて顔を上げた。





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