start!!
「ユエちゃん…大丈夫?」
春歌の心配そうな声にユエは必死に頷く。那月の抱擁に意識が飛びそうになったものの、なんとか意識を保ち、やっとのことで抜け出した所だった。
「ごめんなさい…ユエちゃんがフランス人形さんみたいで、すごく可愛かったんです…いつも翔ちゃんにやめろって言われてるんですけど…」
さっきの勢いは何処へやら。一転してシュンとしている那月にユエはにっこり微笑み首を振る。
(すごく真っ直ぐで素直な人なんだね…)
すると、隣で見ていた赤髪の青年が興味津々といった様子で身を乗り出してくる。
「確かにすっごく綺麗…って、オレ何言ってんだろ…」
人懐っこそうな眩しい笑顔で話すこの青年は、とても素直で分かりやすい性格らしい。かあっと見る見るうちに顔を真っ赤に染めてしまった。1人で顔を赤くした青年に代わり、今度は青髪の青年が口を開く。ちなみに後ろでは、まるでお花畑にいるかのような雰囲気で、そうですよね!と、那月が頷いている。
「ふむ…確かに美しい…ところで名前を聞いても良いだろうか?」
今度は少し古風な話し方をする誠実そうな青年。切り揃えられた前髪や、ピンと伸びた綺麗な姿勢からは己に厳しい武士のような雰囲気さえ感じさせる。
「あーこの子は七海春歌」
「よ、よろしくお願いします…!」
「で、こっちは月村ユエ、あたしが渋谷友千香ね」
『よろしくお願いいたします』
スケッチブックで挨拶をすると、3人はやはり不思議そうな顔をする。
(分かってはいるけど、やっぱりちょっと大変だなぁ…)
『実は失声症という病気を患っていて一年前から声が出せないんです』
「そうなんですか…ユエちゃんの声は絶対可愛いと思うんですが残念ですね…でも、そんなユエちゃんも可愛いです!!」
「大丈夫!!オレらが頑張ってサポートするよー!!」
「じいに喉に良いハーブティーを聞いたことがある。今度持ってこさせよう」
『あ、ありがとうございます!!そこまでして頂くなんて…』
3人は気にするな、と優しく笑ってくれる。
(な、なんて優しい方々…こんな方いるんだ…)
「で、あんた達の名前はー?」
「オレは一十木音也だよ!」
「聖川真斗だ」
「僕は…ってもう言っちゃいましたね。四ノ宮那月です」
赤髪が音也。
青は真斗。
黄色は那月。
(信号機みたい…)
と、思ったのは内緒。
「皆さんアイドルコースなんですか?」
「うん!オレらはアイドルコース!七海たちは?」
「春歌は作曲家コースよ。ユエも。あたしはアイドルコースね」
かつてはユエもアイドルを目指していた。早乙女の復帰させようという想いに反してユエ自身は、その夢を諦めようとしているのだが。
(やっぱりアイドルの方々は特に輝いてるなぁ…)
その輝きを羨ましく思い、ユエは目を細める。
「月村はアイドルコースじゃないんだねっ!これだけ綺麗だからオレてっきりアイドルコースだと思ってた!」
『一十木くん、私より綺麗な子なんて沢山いますよ』
((月村/ユエはトップレベルで綺麗でしょ/だろう…))
この時ユエ以外の全員の気持ちが1つになったとか…。
その後、Aクラスの担任である林檎が来て、学園の説明を行った。
卒業オーディションの合格者は将来が約束されること。
卒業オーディションは作曲家、アイドルのペアで受けること。
そして一番重要なことは恋愛は絶対禁止。発覚した場合は即大学ということ。
様々な出会いと困難と喜びが待っているであろう1年の学園生活が始まるのであった。
(ユエちゃーん!クラスどうだったー!?)
(まつりちゃん!あのね一十木くんと聖川くんと四ノ宮くんていう優しい人がいたよ)
(なんで男ばっかり!!?)
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