入学式
暖かい春の木漏れ日が差し込む今日この頃。
(今日は入学式…!!)
理事長が空から降ってくるという普通じゃあり得ない入学式を終え。ユエはこれからの1年を過ごす教室へ向かっていた。まつりは優秀な生徒が集まるSクラスに所属し、ユエは春歌、友千香と共にSクラスに次ぐAクラスに所属することになった。
「ねぇユエ…まつりのあの溺愛っぷりなんなの」
「すごかったね…まつりちゃん本当にユエちゃんのこと大好きなんだね」
『あんなに心配されると思ってなかったよ』
体育館からSクラスのまつりのみ別れることとなったのだが、別れ際まつりは泣きながら友千香にユエを頼むと残していったのだった。
[ユエちゃんが狼共に食べられないか心配だよぉーーーーっ!!!]
凄まじい勢いで肩を揺さぶられていた友千香は顔に疲労の色を濃く残していた。
「はぁ…思い出しただけでも疲れるわね…」
『ごめんね、まつりちゃん心配性みたい。そんなに心配することないのにね。』
そう言い労るように友千香の頭を優しく撫でるユエ。
「やだ、本当に良い子ね…あたし涙でそう…」
(そして天然だわ…)
教室にユエが入った時から、男女を問わずユエに熱い視線が送られているのだ。そして聞こえる沢山の潜めた声。
「やば…あの子すごい可愛い…」
「さすが早乙女学園だな…レベル高ぇ…」
「お人形みたいね…綺麗っ」
結局まつりの心配は正しかったのだ。
「そういえば春歌体調大丈夫なの?」
『え!?春歌ちゃん体調悪いの!?大丈夫!?』
「あっ…入学式の時に貧血でちょっとフラッとしちゃっただけだから、もう大丈夫だよ」
親切な方に助けて頂いたんです、と笑う春歌の後ろにレモンイエローが写る。
春歌の後ろには、優しい色の金髪を持つ、眼鏡を掛けた綺麗な顔立ちの高身長の青年が春歌を心配そうに見ていた。
「あっ…入学式ではご迷惑をおかけして申し訳ありませんでした!」
と、勢いよく青年に頭を下げる春歌。
どうやら入学式中に体調が悪くなった春歌を彼が介抱したらしかった。
(優しそうな人だなぁ…)
春歌の体調が回復したのを見て安心したように微笑む青年は全身から陽だまりのような暖かさを醸し出している。
「えっと…紹介します。お友達の渋谷友千香ちゃんと月村ユエちゃんです」
「初めまして。四ノ宮那月です」
青年−那月は心地好く伸びる声で二人に自己紹介をする。ふと那月の視線がユエを見て動かなくなった。
「渋谷友千香です!よろしくね…ってアレ?」
「…四ノ宮さん?」
じっと見つめられることを不審に思いながらも自分も名乗ろうとスケッチブックを取り出そうとした、その時…
「かっかわいいですっ!!!!」
「!?」
気付けば那月に抱きしめられていた。
(なっ…なな…っ)
しかも、物凄い力を込められる。その時ユエは初めて自分の骨が軋む音が聞こえたんだとか…。
(く、苦し…っ)
声が出せないため、必死に那月の胸を叩くがびくともしない。助けを求めようと涙目で春歌と友千香の方を振り向こうとすると、視界の端に赤と青が写った。
「わぁ!那月!!その子めっちゃ苦しがってるから!」
「四ノ宮!!離してやれ!!」
(また誰か来た…っ)
猛スピードで巡る展開に混乱する頭の中で、ユエはそんな事を思いながら一瞬意識が遠退くのを感じた。
(きゃあっユエちゃん!!しっかり!)
(あー…あたし、まつりに怒られるな…)
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