番外編
“土御門家”
歴史的にも有名な始祖安倍晴明の末裔と呼ばれる陰陽術に最も長ける名家と名を馳せる一族。
その土御門家には1人の少女がいた。
土御門家唯一人の子どもであり両親の愛情を注がれ今や8歳の少女だ。
しかしながら少女は記憶がない。
8歳以前の記憶を全て失っている。
8歳を迎えようとした誕生日の日、少女は何者かに囚われ深い傷を負った。
その後遺症が全ての記憶を失わせたのだろうと少女を看た医師は見解し、現在半年が経とうとしていた。
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そろそろ午の刻だろうか?
調理場から食材を切る音や調理鍋がふつふつと沸騰していくのが聴こえてきた。
今は庭で遊んでいる少女を昼餉が出来る旨を伝えに向かうべきかと1人青年は思案していた。
外見は20代後半ぐらい整った顔立ちをしており、髪は長く銀髪で180はあろう長身の青年。
彼は少女の式神であるため少女の居場所は把握している。
彼の眷属達が少女の遊び相手となり今は庭で遊んでいるのだろう。
彼がもう少し小柄で幼くあったならば少女の遊び相手になれただろうがそうなる手段は彼にはなく、かと言って少女を1人にすることも出来ず自身の眷属達に少女の遊び相手をするように命じた。
信頼に足りる眷属達だ、彼が少女の傍にいなくとも少女を守り少女を楽しませる遊び相手になってくれているはずだ。
「…、様。」
ふと誰かが自分を呼ぶ声が聞こえた。
その声の持ち主に目を向けると少女の母親だった。
彼女はもう少しで食事の用意が出来るから娘を連れてきてほしいと彼が思っていたことと同じことを頼んできたのだ。
彼はこくりと頷き、母親は感謝を込めて深く頭を下げた。
少女を守る存在は、少女の式神は目の前にいる彼一人。
娘を一番近くで守ってくれるその存在に深い感謝を込めて彼の姿が見えなくなるまでずっと下げ続けた。
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彼は庭で少女を見つけた。
少女は座り込んでいるようだった。
彼が遣わした眷属達は少女が好む小動物の姿をして少女の傍にいたが、彼の姿が見えると彼に礼をして彼が来たなら役目は果たしたと悟りその姿は霧となり去った。
「…姫、そろそろ昼餉が出来る故呼びに来た。」
「うー…ちぐさこのこもいい?」
「緋沙奈姫?」
少女は青年をちぐさと呼んだ。
彼が少女の式神として得た名は千鎖と言い、千鎖は少女の言葉を疑問に思った。
このこ、とは一体何を示しているのだろうか?
千鎖から見れば少女は、緋沙奈は座り込んでいるようにしか見えず確かめようと少女の傍にいき少女の視線に合わせようと膝を折り傅く体勢となった。
すると少女の膝の上に白い何かが乗っているのを千鎖は認めた。
「これは…、白狐?何故、白狐が姫の元に?」
白い何かとは真っ白な姿をした狐、白狐であり傷などの跡は見受けられないが疲弊した様子で少女の膝に身を委ねていた。
傷がないのを認めここまで疲弊するのを見る限りではひとつしかないと千鎖は結論を出した。
「姫よ、さてはとは思うがこの白狐……。」
「うんっ、おなかすいたっていってるの!」
「……妖や人間に傷つけられたなどは一切なく?」
「うん、おなかすいたからめぐみをくださいってぐったりしちゃった。」
要するに空腹倒れなのだと理解し、小さな少女だからと思ったのもあるのか危機感もなしに食事を追求して少女の膝の上でぐったりする白狐をみて千鎖は頭が痛くなった。
緋沙奈だから良かったものの、それが他の陰陽師だったらどうしていたか…自分から祓ってくださいと言っているようなものではないかと千鎖は呆れ溜息を零した。