流転奇譚 | ナノ






なんと忌まわしい忌み子か、
禍の化け物め”

向けられる視線は何時でも平等に冷ややかで人と見なさない軽蔑の類。
望んで得たものではないというのに人は己と違うものを嘲笑い恐れ軽蔑する。

人として扱われることなく化け物は管理しなくてはならないと何年も幽閉されてきた日々送っただろう。
・・・救いの手が現るその日まで、何もかもが灰色だった。


『急げ匡(きょう)、ここは俺が引き受ける。荒ぶる龍相手にお前では分が悪い・・・ただし、引き受けてやるからには手際よく救出してこい。』

半身の如く、瓜二つの容貌である弟から指摘の声が届き強制的に現実に引き戻されるとようやく自覚する。
あぁそうだ、ここは戦場だ。
過去の余韻に浸り感傷的になっている場合ではない。

奪われたものを奪還するためにここまできたのだ。
何よりも大切で灰色の世界から光をもたらしてくれた存在を奪還するために。

「あぁ、お前に任せるよ。・・・だが無理はしないように頼む、怒りのままに荒ぶる化身となっているとはいえ神名名高い龍神だ。」

主を奪われたことへの怒りのせいなのか、本来であれば厳格ながらも温厚である性の龍神の目は血の色の如く真紅に染まり白銀の美しさを誇るその姿さえも禍々しい漆黒を纏っていた。
妖相手ならば祓ってしまえばそれで事足りるが相手は龍神だ、それも京を守護する一柱に入る龍神相手を祓うなど以っても他だ。例えるなら人間が神を殺す行為と何ら変わりはしないのだから。

一筋縄ではいかないだろうが、他ならない血を分けた弟が任せろというのだ。
多少の心配はしてもうまくやってくれるだろうと不安に思うことなど何一つとしてなく、たとえ燃え盛る炎の渦中の中だろうとかまわず突き進むことができる。


「・・・我が許へ来たれ式神・“天狐”」

『御意にございます匡様。』


真名ではないものの名を呼び出すと美しい金色の毛並を誇り幾つものの尻尾を有する神々しいまでの狐は凜とした声で応えた。

言葉にしてはいないものの自らの式神に目をやれば主の意図を理解し、邪魔で仕方のない幾重にも立ち塞がる炎の柱を自らの狐火で相殺し道を切り開いてみせた。


そして、その奥に見えたのはずっと取り戻したかった大切な少女。

忌々しくも手首には縄で縛られ身体には無数の傷が刻まれている。
その光景を見るだけでこんな幼い少女をかような目に遭わせた外道共を一掃したくなるほどの怒りが湧き上がってくるが、悟られぬように少女の前では冷静だと偽れるように小さな身体を抱擁した。


「・・・もう大丈夫、君は俺が守るよ何に代えても俺が守るから






君が俺を救ってくれたようにね、“ヒナ”」






プロローグ
“遠き誓い”
((人として生きて良いのだと教えてくれた君へ誓い立てよう、今度は俺が君を守る番だと))


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