流転奇譚 | ナノ






“陰陽塾”
それは陰陽師を目指す者達が必ず通過しなくてはならない陰陽師養成所のことを指す。

塾と名付いてはいるものの、始業時間から終業時間まで定められており表向きは一般の学校と変わりはしない。
違いがあるとするなら“陰陽道”を学ぶか否かの大差だけだろう。

陰陽道は陰陽師が使用する術の総称であり、陰陽道を極めた者が将来有望な陰陽師になるとまで言われるほどに陰陽師にとっては誇示される陰陽道の源である霊力と妖を捉える見鬼と呼ばれる霊視能力とともに必要不可欠の三大要素と呼ばれている。

陰陽塾に年齢制限というものはなく、陰陽師を目指す者なら誰でも入学は可能だ。
ただし適性試験というものがあり入学しても陰陽師向き不向きというものがあるので入学しても必ずしも皆が陰陽師になれるわけでもない。

将来の陰陽師のたまごを育て、陰陽師が所属する国立機関“陰陽省”へ送り出し活躍させてやらなくてはならないが、不適合と見なされた生徒には一般の就職先を与えてやらなくてはないのも事実だ。

陰陽師には向かないからと即座に切り捨てるような真似はしない。
しかし、それでも生徒の心には傷を与えることには違いなく、陰陽塾側としても心を痛めているのだ。

だが、それでも陰陽師は必要だ。
表向きは政治家が国を支えてはいるが、国を影から支えているのは他ならない“陰陽師”なのだから。



「おはよ緋沙奈!今日も可愛いわねぇ、うんうんさすがうちのクラスの天使もといあたしの天使なのからしね!」

「わっ!美沙音?おはよう、今日も元気だね。」

「緋沙奈が可愛いからよ!男なんてどうでもいいけど可愛い子には目がないのよね可愛いもの。」

教室に入った途端にぐっと抱きしめられ思わず緋沙奈はきょとんと目を丸くした。
隠形し姿を消して控えている洸劉とは異なり、緋沙奈の傍を浮遊していた小さな龍の姿をした千鎖はまたかと気配を察するなり安全な場所へ避難したのだが『相変わらずな姫好きな女だ』とやれやれと言った風情にため息を漏らした。

緋沙奈を抱きしめながら可愛い可愛いと頬すりすりする光景は異様に見えるのだが、それだけ緋沙奈が好きなクラスメイトであり友人なのだ。

名は美沙音(みさね)
入学した頃からの長い付き合いで、緋沙奈とは対照的に男勝りでかつ男より可愛いものに興味を持つ女子で緋沙奈にこうして抱きつくのは日常茶飯事とも言える。


「過剰な挨拶はその辺りにしておいたらどうだ美沙音?彼女の式神が困っているよ。」


千鎖が避難した先はとある青年の肩だった。
その青年はいつものことながら仕方ないと笑ってみせて当たり障りのない程度に注意を促した。

肩にかかる程度の蘇芳の髪に惹きつけられ緋沙奈は青年に見つめると「颯真(そうま)」と彼の名を呟くと颯真はふわりと「おはよう緋沙奈」と言葉を返した。

「・・・過剰とは失礼ね!あたしは緋沙奈を愛でてるだけよ緋沙奈の“元”婚約者!!」

「“元”を強調しないでくれよ、さすがに抉られるんだがな・・・はは。」


クラスメイトではあるがこの颯真という青年、かつては緋沙奈の婚約者であった男だった。





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