流転奇譚 | ナノ






緋沙奈には過去の記憶がない。
それは8年前に起きた事件の後遺症だろうと千鎖は言った。

8年前のこと、幼い8歳になったばかりの子供の頃に何者かに誘拐された。
その理由というのは緋沙奈が土御門家の人間の中でも類をみない甚大な霊力を秘め、土御門の先祖である安倍晴明の再来とまで言われるほどだったからだ。

甚大な霊力を秘めるが故に引き寄せられたのか、こうして目の前で眠たそうに欠伸をしている“白龍”の名を持つ千鎖が彼女を選んだ。
京の西方を守護する白き龍神たる存在に気に入られ見初められたが、子供は7歳までは神の子であると言われている。

8歳となるまでは神の眷属故に妖の類は断じて手出しは出来ない。
千鎖は妖というよりも神寄りの眷属であるので干渉し加護を与えることは出来たのだが、千鎖が望んだのはいずれ陰陽師となる少女の式神となり仕えること。

しかし式神となるには8歳からというのが掟。
正式に人の子と成ったその時から式神を使役することが許される。

故に千鎖は式神となるその時がくるまで緋沙奈に加護を与えて8年間待ち続けた。

「我は姫を気に入ったのだ。か弱い幼子であろうに甚大な霊力を秘めていたことにも興味をもったのも事実だが、何より姫個人が我の興味をくすぐってな?式神として下るのも悪くないと思ったのだ。」

「・・・京の護り神というのは暇なのか?」

「むっ失礼な!・・・と言いたいところだがその通りだ。言っておくが今現在京を守護しているのは四聖獣と呼ばれる存在であって我ら五龍と呼ばれる存在は副官のようなもので四聖獣ほど拘束力はないのだ。だからこそ姫の式神になることも容易だった。」

自身のような白狐や妖の類ならいざ知らず、京を守護する存在が幼い少女の式神となると決めたものだから京の守護龍というのはよっぽど暇なのかと揶揄を込めた洸劉の言葉に千鎖は不満そうに睥睨したものの、おおよそ否定出来ない為に不満を呑み込んだ。

あくまで京の守護の根源となっているのは四聖獣と呼ばれる安倍晴明が使役した式神でもある十二天将の存在であり、千鎖のような五龍と呼ばれる龍神達はその補佐をする副官のようなもので四聖獣ほど大任ではないため、よほどのことがない限り暇を持て余していたと千鎖は言った。

そして、千鎖ほどの神聖な存在を式神に下すとなればそれ相応の儀式を執り行う必要があり8歳となったその日に儀式を行ったのだが、千鎖と式神の契約が結ばれようとした刹那に何者かの集団に妨害され緋沙奈は連れ去られた。

思い出すのも忌々しいと千鎖は苦虫を噛み潰したように不機嫌そうに見た目だけは可愛げのある表情を歪めた。





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