匡が抱く緋沙奈を守ろうとする思いは同じく彼女を大事に思う式神達が抱く“守り”とは異なっている。
千鎖と洸劉は主である緋沙奈を敬愛し彼女の役に立ち助けたいという純粋なものであるが、匡はそうではない。
匡にあるのは是が非でも彼女を守らなければならないという絶対的な概念による保護欲から生まれたもので、彼女は自分に守られていれば良いと考えその思いはあまりにも固執している。
「君の支援者としてひとつ忠告しておくけど、大事にしていても伝わらなきゃ意味がないだろう?嫌われたいわけじゃないだろうに…。」
匡の思いがどんなに強く、緋沙奈を大事に思っていても伝わらなくては本末顛倒だ。
元にさっきまでの緋沙奈に対する強引さもそうだ、素直に言えば彼女も理解してくれた可能性も有り得るのに強制的に事をすすめた。
今はまだ大丈夫だとしても、いつか彼女が匡に対して不信感を抱き最悪の場合は嫌われかねないことを匡はしている。もちろん、匡自身にその自覚もある。
いくら歪んだ感性を持つ篝でも匡を支援する以上、匡の事を案じるだけの心は持っており諭す言葉を彼に言うが匡はそれでも構わないと言った。
緋沙奈を守れさえすれば彼女に嫌われようとも構わない、彼女を守る為に道化を演じると決めたのは自分自身なのだから今さら変えることは出来ないと…。
しかし、時に彼の脳裏に過るものがある。弟を除いて誰も振り向く事のない忌み嫌われた自分を躊躇うことなく差し伸べてくれた手と陽だまりのように暖かい笑顔の少女が好きだったと、どうしても忘れることの出来ない思いが溢れてくる。
「…馬鹿だよなぁ、この後にを及んで嫌われたくないだなんて本当に身勝手で救いようがない。」
自嘲するように笑い、今では向けられることのない笑顔を、彼が好きだった笑顔を浮かべる少女との思い出に縋った。
“きょう、わたしね、きょうといっしょにいるとしあわせなんだよ?きょうがだいすき!”
きょう、と頼りながらその名を呼ぶ少女はもういない。
約束は踏み躙られ少女は全てを忘却し、自分から何もかもを奪ったあの日が今でも憎い。
やり場の無い怒りは今でも脈を打って絶えず鼓動を重ねていた。
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