流転奇譚 | ナノ






「何が味方だ、俺とあんたは互いに利用しているだけの利害関係だろ。…少なくとも白龍のように情深くはない。」

篝は匡を支援する協力者の神だが、だからと言って心許せる存在とは異なる。

同じ神でありながら人間の配下に下った白龍である千鎖は、主である緋沙奈に忠実で彼女を守る為ならその身を賭すことも厭わないだろう。

式神という契約による縛りもあるのだろうが、それは緋沙奈の傍に居るための手段として彼が選び望んだものであって本質は彼女を守ることだ。
緋沙奈以外の者には尊大な態度を取るものの、基本的には情が深く親身になり偽りは決して言わない真っ直ぐな神と言える。

対する篝は表面上では穏やかに見えるが、千鎖ほど情深くはなくその実は薄情でもある。

「気に入った人間を見つけたという時点では私も白龍王と同じだろう?…まぁ、堅実な彼のような信念は持ち合わせていないけどね。」

「だから白龍に嫌われているんだよあんたは…白龍が嫌いな性格そのものだ。」

案の定、否定せず肯定する姿勢だ。
それも涼しげな笑顔を絶やさず言うのだから苛立ちが込み上げてくる。

千鎖が篝を嫌うのも無理もない。
千鎖が持つものを、本来であれば持たなくてはならないものをこの男は持っていないのだから。

千鎖には信念がある、それは龍神であることの誇りや矜持、自らの使命を果たそうとする心。
緋沙奈の式神に下ってからは緋沙奈を守ることが自らの信念だと新たなに定めてきたが、対するこの男はそれらのものが欠けている。

神でありながら誇りも信念も持たず、果たすべき責務を果たさないのに位の高い序列に名を刻む怠惰なこの男が許せずにいるのだろう。

かの白き龍神が求めたものはひとりの少女の傍に居続けることを許して欲しい、ただのそれだけでそれ以外に求めるものはなく無償の善意そのもの。


「私と君は対等な関係だろう?私は君を気に入り君は君自身の望みを叶える為に私を求めた、互いに理にかなっているさ。」

そして金色の神が求めたものは己が為の愉悦、退屈を紛らわすように自らが愉しむ為だけの余興に過ぎず善意などありはしない。


「君は面白いね匡。人の身でありながら一歩踏み込めば妖側にもなり得る鬼の子、実に面白い。言ったろう?君が君であり続け壊れないうちは協力は惜しまないさ…ねぇ?」

姿形は人当たりの良さげな好青年だというのにその本性はあまりにも醜悪。
穏やかさは変わらないのに冷たく嗤っているようだった。

匡に力を貸すと言っているがそれは匡に興味を見出す間はという意味で、彼に危険が迫ってもこの男が助けることはないだろう。

生きているから力を貸す価値がある、そうではなく容易く命を手放してしまうようならそれまでのこと。
白龍のように無償で力を貸し他者の為に行動する神ではない。

匡と篝を繋いでいるのは緋沙奈と白龍のような信頼し合う関係には程遠く、互いの目的の為に利用し合っているのにすぎず、目的を果たす為ならたとえそれが歪んだ神でも構いはしない。

「好きに言え、そう簡単にくたばってやるつもりはない。…俺は俺の目的を果たすまでは倒れるわけにはいかないんでね。」


目的を果たすためなら手段など選んではいられない、そのための取り引きだ。



[ 16 / 18 ]
[*prev] [next#]
[mokuji]





第4回BLove小説・漫画コンテスト応募作品募集中!
テーマ「推しとの恋」
- ナノ -