流転奇譚 | ナノ






「中々面白いことを言っていたね彩葉?」

緋沙奈達が部屋を出て5分も経たないうちに匡は興味深いものを見つけたようににやりと笑うと頬杖をつきながら彩葉を目に映した。

「それは私が式神の役目を忠告したことにございますか?それとも同胞を思い白龍様に懇願したことでしょうか匡様。」

「んー、両方かな?」

”天狐彩葉”にしては珍しい光景だったと言われているような気がするが、それが嫌だとは
思わなかった。
むしろ彼の言葉通りなのだろうと彩葉自身も思っていたことだ。

頼る者などなく1人で生きていた、それが至極当然のことで他人を思いやったり情けをかけることは決してなかった。

人間は自分を縛るだけの存在でしかなく、隙あれば主であった人間さえ手にかけてきた。式神だから主に絶対忠誠などという価値観は持ち合わせていない、天斬家が誇る最高峰の式神であり主にさえ牙を剥く冷酷非情な女狐だった、…匡と出会い彼の式神に下るまでの彩葉は。


「匡様、貴方と出会って私は本当の私を取り戻せました。身を賭して貴方を護ることが私の使命であり至福なのです、洸劉もまた姫様を守りたい白龍様に認められたい、その気持ちが彼を強くした、自慢の愛弟子ですもの大事に思うのは当然のことですわ。」

長きに渡り天斬家の式神として主に仕えてきたが自らが望んで身を賭してでも護ると誓った主は唯のひとり匡だけ。

あれほど人間に縛られることを嫌っていたのに匡の式神として使役されることへの戒めは苦ではない。
それどころか匡の役に立つならばこれほど嬉しいことはないと歓喜しているほとだ。

洸劉もまた緋沙奈を守り彼女の式神である千鎖に認めてもらえるように4年間自分の元で修行に励んできたのだ。

洸劉の成長は早く、今となっては並みの式神や妖では敵うことのない力量を身につけてきた。

いずれは彩葉と同じ天狐となる可能性を秘めた二尾の白狐。
同胞であり師でもある彩葉は彼の行く末が楽しみで見守りたいと願っている。


「そうか…彩葉、先に家に戻って何か作っておいてくれないか?午後からの就任式までまだ時間はあるからね。」

「はいお任せ下さいませ、匡様何か食べたいものはございますか?」

「んー、じゃあ稲荷ずしをお願いするよ。君の得意料理だろ?」

「承知致しましたわ、では早いお帰りをお待ちしておりますね。」

午後から就任式が決行されるとはいえ、一度自宅へ戻って昼食を済ませるぐらいの時間はある。

彩葉が最も得意とする稲荷ずしを用意して欲しいと頼むと彩葉は嬉しそうに微笑み、用意して待っていると言うとその場から姿を消した。

完全に彩葉の気配が部屋から立ち去ったのを感じると匡の表情は険しさを帯びた。
緋沙奈に見せた飄々しさでもなく彩葉に見せた穏やかさでもない、言葉に顕すならば警戒にも似たそんな表情だ。


「おやおや、君は私には手厳しいな。…私は君の味方だろうに。」

あからさまな匡の態度の変わり様に彼の支援者である神は苦笑しながらもその表情はどこか愉しそうで口元は絶えず弧を描いている。

千鎖と言葉を交わしてからは気配を断って見守る姿勢をとっていたというのに、他の者はおらずようやく気配を断つのを終えてみればこの仕打ちだ。
千鎖ほどの敵意はないにしろ、嫌われているものだとわざとらしく篝は肩を竦めた。




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