「ご無沙汰しております、彩葉様。」
匡の話も一段落ついたのを見届けた洸劉は隠形を解き顕現した。
姿が見えずにいた洸劉だが、隠形することで姿を見えなくしていただけで匡の話が終わった今、隠形する必要性もないので彼は姿を現したのだ。
そして匡の式神である彩葉に一礼をした。
「久しぶりね洸劉。」
洸劉は白狐で彩葉は天狐。
白狐が1000年以上の齢を重ねた結果が天狐と呼ばれる神格を得た存在となる故に彩葉と洸劉は近い存在と言える。
同胞であり仲は良いが、決して敬うことを怠らず敬意を払う。
近い存在と言えども彩葉は遥かに洸劉を凌ぐ地位を持つ存在なのだから。
しかし、それを言うと彩葉よりも地位のある千鎖を敬うどころか蔑ろにしているように思えなくもない態度はどうだろうかと疑問にも思うが千鎖本来の姿ではないために仕方ないとしよう。
「改めて思うのもどうかと思うけれど、あなたは良い主を得たわ。姫様を守り抜きなさい、それが主を得た式神のお役目。」
「はい、承知しております。」
「良い返事ね…白龍様、まだ若い我が同胞のこと、今後ともよろしくお願いしますわ。」
「うむ、異論はないぞ。」
緋沙奈のように式神を大事に思う人間を主を得たことはこれ以上にない至福に等しいだろう。
誰もが緋沙奈のように良き主に巡り会うとは限らず、中には式神を道具のように扱う者さえもいる。
それを思えば洸劉は恵まれているのだろう。
まだ陰陽師見習いとはいえ、必要な力量が今は不十分であっても身を賭して守るべき主と
たしかに言える。
そして洸劉は緋沙奈の式神ではあるが白狐として生を受けて200年程度しかなく、1000年以上の歳月を生きた彩葉や千鎖ほど経験を積んでいないために未熟な部分も多少はある。
だからこそ彼が主を守るに相応しい式神となるように鍛えて欲しいと願う。
自身が白狐の時は頼れる者はおらず1人で生きてきたが洸劉はそうではない、気難しい性格であれども千鎖は主である緋沙奈を守る為なら力を貸してくれるだろう。
彼にとっても緋沙奈を守る力は多くあることを願っても不要とは考えてはいない。
口喧嘩は絶えずとも洸劉のことはしっかりと認めているのだ。
喧嘩するほど仲が良いと言う言葉があるが、洸劉と千鎖はそれに似た間柄でもあるといえる。
そして元々は洸劉と同じ白狐だった彩葉にとって洸劉は同胞でありこの先の成長を見守りたい存在でもある。
これは人間や動物の有する“母性”にも似た感情に等しいといえるだろう。
「では失礼しますね匡さん。」
話が終わった以上、ここに留まる理由もなく緋沙奈は匡に挨拶を交わした。
匡も話が終わったなら緋沙奈を引き留める理由もないので手を振ることで見送りの意思を示すと彼女が去るのを見届けたのだった。
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