流転奇譚 | ナノ






緋沙奈が匡に提示された“あの件”とはインターンの一件であった。

陰陽塾の7年生には就職活動を含めたこともあり、陰陽省でインターン塾生として配属されることが許可されている。
インターン塾生とは塾生でありながら陰陽省で働く体験をすることが許された、いわゆる研修生のようなものでインターン塾生となれば配属された部署での内定は確定される。

しかし、インターン塾生の制度があれども全ての塾生が対象ではなく陰陽省が選んだ、若しくは応募を掛けた生徒の一部がその対象となるのであって、生徒にしてみれば将来を約束されたものに他ならない利点がある。

つまりは緋沙奈は匡に匡が所属する部署のインターン塾生になるようにと話を持ちかけられたのだ。
返答の期限が設けられ、それが今日であり返答しなくてはならない。

緋沙奈にとって決して悪い話ではなく、むしろ将来を約束されたと言っても過言ではないのだがあまりにも話が唐突すぎたのだ。

通常インターン塾生として陰陽省が雇い始めるのは早くても7月あたり、桜舞う4月からでもインターン塾生を雇い始めるのは不可能ではないがそれは部署内の責任者の権限でもない限り不可能なこと。

緋沙奈が匡からその話を持ちかけられたのが3週間前のこと、たったの3週間前のことなのだ。
あまりにも早くインターン塾生の案を持ちかけられ、その期限はあまりにも早い。
そんな短期間で答えを纏めろというのが正直な話、無理な話で何より担任にさえもこの一件を話していない。

しかし4月からインターン塾生を雇えるのは部署内の責任者、つまりは所属する部署のトップの室長でもなければ無理な権限を匡は持っていたということになる。

緋沙奈が知る限りでは匡は室長を補佐する副長の立場にあったはずなのだが、もしかすると知らずのうちに室長に昇格していたのか、否、そう考えなくては匡に緋沙奈を4月から雇う権限などないはずだ。


「匡さん、あのですね?」

「うん?何かなヒナ?」

「話が唐突すぎてですね?インターン塾生ってたしか一般的なのが7月のはずですからそれまで保留って形を希望したいんですけど・・・どうですか?」

「ふぅん?俺が君を雇う権限があるって理解してくれてると思ってたけどそういう結論に辿り着くんだね・・・?」


断りはしない、ただ頭の整理がつかないから保留にして欲しい。
今回が特別例であって本来ならインターン塾生を雇い始めるのは7月からだ。

匡もその事実を知っているはずだからきっとわかってくれる、ただ期限があと少しだけ延びるだけだと緋沙奈は祈ったが彼女の祈りは匡には届かなかった。

口元は冷淡なまでに笑みをつくり、立ち上がると緋沙奈の元へ歩み始めた。

・・・いいや、それは歩むというより“迫る”という表現の方が正しいかもしれない。
畏怖さえ感じさせ、緋沙奈は息を呑み後退りを試みた。

しかし、やがては壁側へ追い込まれ逃げる術を失ってしまった。

好都合だとばかりに匡は壁側に左手をつけ、確実に逃げ道を塞ぎ緋沙奈を見据えた。



「わからないヒナ?君が応えるべき選択肢はYESかNOのふたつだけだ・・・それ以外の選択肢はない。」



冷酷なまでに淡々とした言葉と視線が突きつけられた。




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