流転奇譚 | ナノ






放課後になり、匡に言われるまま緋沙奈は匡専用の執務室の部屋の前に来ていた。

現役の陰陽省で活躍する陰陽師でもあるためにか、匡には職員室とは別の特別に用意された執務室が存在する。
わざわざ匡固有の執務室に緋沙奈を呼び出すというのだから、進路相談という名目上のものが匡の納得のいく意見でもなければおそらく帰してくれそうにもない。

匡に呼び出されている事実にクラスメイトの何名かに羨望の眼差しで見られ羨ましがられたがそれは“本来”の匡を知らないからだ。
陰陽塾での教師である匡は優しく人柄も良く穏和だとそれはそれは人気者であるが、実際の匡はそんな良く出来た人格者などではない。


そう、“本来の匡”は・・・・・、



「やっと来たの?ヒナ。俺を待たせるなんていい度胸だなぁって言ってあげたいけど約束の時間はぎりぎり間に合ってるから許してあげるよ。」



こんなにも自分至上にして態度も大きく自信家という陰陽塾での教師である匡とは全くを以ってして別人格だというのに。

「あの天斬先生、」

「“匡”でしょ?つれないね俺と君の仲なんだから名前で呼んでよ。心配しなくてもこの部屋には結界を施しているから万一にも他の生徒が入っているなんてありはしないから。」

「うっ・・・匡さん、私を呼び出した理由ってやっぱり“あの件”ですか?」

「そうだよ?期限は設けたんだから君は応えるべきだよねぇ?・・・あー髪おろすのももういいかな結ってしまおうかな。」

ここは陰陽塾であるのに関わらず匡は緋沙奈が教師として呼ぶのが気に入らず名前で呼ぶようにと間髪をいれずに申し出た。

たしかに緋沙奈と匡は元々は幼い頃から親しい間柄であるために知らない関係ではないのは事実で自分達以外の誰もいないときぐらい名前で呼んで欲しかった。

それにしても教師としての匡が仮面を被り演じていたのが良くわかるほどに脅迫までに上から目線の言い様である。

鬱陶しいとばかりに匡はおろした髪を紐で頭の横でひとつに結い、視力が悪いから掛けていたことなどない、つまりは伊達眼鏡を外すと身だしなみよく整った服装も着崩し始めた。


そして今一度緋沙奈に問い掛けたのだ。



「さあヒナ、返答を聞かせてもらおうか?」






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