流転奇譚 | ナノ






正式召喚法の術式を用いて緋沙奈は白狐・洸劉をすることに成功し今朝とは異なり本来の白狐の姿の洸劉は礼儀正しくお座りの体勢を取りながら、白狐の姿だと必然的に視線も緋沙奈より下になってしまうため、主である緋沙奈を見上げていた。

その姿は同じ狐といえども匡の式神である天狐の彩葉と比べると彩葉が大柄にして九つの尻尾を持つ狐なのに対して、洸劉の体長はせいぜい大型犬よりひとまわり小さく尻尾も2本しか有していない。

しかしその姿形は疑うことのない白狐の姿であり、人の姿をとっている時と異なり非常に愛らしい姿で自制しようとしても撫でたい衝動に掻き立てられてしまう。
躊躇いと撫でたいという感情の間で揺れ動いていると洸劉も緋沙奈の心を汲んだのだろう、“かまいませんよ緋沙奈様、どうぞご自由に”と自ら身を差し出した。

主である緋沙奈の望みならば無碍になど出来ようはずもない。
・・・いや、それ以前に緋沙奈に撫でられることを洸劉は望んでいるのであり、その証拠に撫でられる度に二本の尻尾が交互に揺れ動きそれは喜びを示していると誰の目から見ても一目瞭然で、善狐に分類される凛々しいはずの白狐なのにそれがもはや全くと言っていいほど感じ取れない。

その光景を見るや否、狐ではなく犬ではないかと緋沙奈の肩に乗った千鎖は呟いたが緋沙奈に撫でてもらってよほど嬉々しているのか千鎖の言葉は洸劉の耳に届かず終始満面の笑みを浮かべるばかりだった。


「君の式神は変わらず主思いですね土御門さん、良いことです。」


するとそこへ召喚術教師である天斬匡が緋沙奈の元へやって来た。

背中より少し上くらいの長さの下した漆黒の髪と眼鏡越しながらも人当りの良い笑みを浮かべてやってきた匡を緋沙奈はほんの少しだけ後退りをした、本能が危険視号を鳴らしたのだ。

いくら人当りの良さそうに見えてもそれはこの男の本性ではないからと知っているからだろう。

「あぁそうだ土御門さん、約束通り放課後お願いしますよ?大事な進路相談の話がありますから待っていますから・・ね?」


案の定、眼鏡越しの瞳が鋭く細められたのを緋沙奈は感じ取りそれはやがて恐怖にも似た感情を抱かさせた。

言葉こそは丁寧だがその丁寧な言葉の中に僅かに脅迫とも言える圧力がたしかに加えられて、緋沙奈はこくこくと頷くしか許されず、満足した匡は教卓へと戻っていくと授業の終わりを告げた。

そしてそれは緋沙奈にとって最も訪れて欲しくなかった放課後のはじまりを示すものであり、肩を落とす他なかった。

「い、逝ってきます。」

『ひ、姫・・・哀愁漂っているが・・・・・が、頑張るのだぞ姫。』

『どうか御武運を・・・。』

どうにかしてやりたいと思いながらもこの一件のおいては緋沙奈が答えを出さないといけないことで式神が口出す問題ではなく、こうして励ましながら応援することしか出来ないことが口惜しい。


一刻も早く匡のいう進路相談というのが終わってくれと小さな龍と白狐は切に願った


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