3/3

 もう七瀬に許可をもらうことはしなかった。自身のものを当てがう場所はもう十分潤っていたから、少し体重をかけただけですんなりと先が進んでいく。
 彼女はオレに組み敷かれ、貫かれることに、頬を上気させているばかりか悩ましい吐息をついている。それを取りこぼしたくなくて奥へ奥へと進めながら、紅いくちびるを奪った。
 キスをすることも舌を入れることも、柔肌に指先や舌を這わすこともできて、さらにはオレ自身を受け入れてさえくれるのに、彼女は絶対にオレのものにはなってくれない。無性に苛立つのに同じくらい泣きそうになる。
 七瀬は悪くないんだ。結婚といえば聞こえはいいが、名家出身の彼女は一族の繋がりを強めるための道具にされているだけ。逆らえないんだ。誰にも、オレにも。
 ……いや、やはり七瀬は悪いような気がする。オレには逆らってくれたらよかったのに、拒んでくれたらよかったのに。「バカじゃないの」と嘲笑って、オレの提案なんか冗談にして背中を向けてくれてさえすれば、

「っ、あ、カカシっ……気持ち、い…!」

 オレは彼女が感じてくれていること、自分の腕の中にいることをこんなにも嬉しく思わなかった。

「…く、はっ……ななこ、」

 彼女の名前を呼んでみたくなんかならなかった。

「ぁっ、ダメ…!」

 首筋に噛み付いて、痕を残してやろうなんて思わなかったんだよ。

 自分の唇に痛みを覚えるほど強く吸い上げて、白い肌に痣のように刻みつけた痕を舌先でなぞった。こちらに伸びてきた手のひらを掴み、彼女の頭の上で固定する。自由を奪って、舌を絡めて酸素も奪って、ななこのいいポイントを探るようにゆっくりと腰を揺らした。
 抜けそうなほど浅くまで腰を引いてから、腹側の壁を圧迫しながら深く奥まで突く。彼女が体を震えさせ、「あっ…!」と声を上げたところを執拗に責めた。
 ダメ、と言いながらも結合部からはぐちゅぐちゅと卑猥な水音が響くようになってくる。腰を引いて逃げようとするのに腹立って、腰を両手で持って固定した。手の拘束は解いたけど、涙を流しながら喘ぐななこはきっと抵抗しないだろう。

「なに? 泣くほど気持ちいい?」

 そう問いかけながら、律動は緩めない。こくこく、と必死に頷きながら嬌声を上げることしかできない姿に自分の興奮も最高潮となる。

「あぁっ…無理、ぁっ、あ…!」

 必死にこちらを見つめ、ぶるぶると首を横に振るのを見、オレは笑って見せた。

「ん、いいよ、イッても」

 そして、それを聞くや否や、ななこは大きく後ろに仰け反ってびくびくと体を震わせた。中がぎゅうぎゅうと締め付けてくるのに、自分も思わず吐息を漏らしてしまう。ハァ、ハァ、と息を切らしながらなんとか耐え、ぐったりとシーツに沈むななこにキスをする。

「えらいね、ちゃんとイケたんだ。気持ちよかった?」

 肩で息をする彼女の舌を絡め取り、絶頂を迎えたことで上昇した体温を感じた。口腔内を舐めるだけで「んっ」と声を漏らすのに言いようのない可愛さがあって仕方がない。

「オレまだだから、もうちょっと頑張れる?」

 キスの合間に髪を撫でて、頬をすり寄せながらねだるとななこは潤ませた瞳をこちらに向けながらイヤイヤと首を横に振る。

「もー…それ煽ってるだけって気付いてないでしょ」

 結局はまた許可をもらう前に腰を揺らして、高揚した気分と気持ちよさに呑まれながら彼女の肌に何度も吸い付く。

「ぅあっ、も、気持ちよすぎ、て…怖いよぉ……」

 終いには止まっていた涙を頬に伝わせながら、ぐすぐすと泣き始めてしまったななこを本当に愛おしく思いながら見つめる。

「うん、気持ちいいね。怖いならオレに抱きついてなよ」

 素直にオレの背中に腕を回したので、自分もななこの背中とシーツの間に両腕を差し入れて抱きしめた。片手の手のひらを彼女の後頭部に添えて、数え切れないぐらいくちびるを落として、先ほどよりもずっと優しく、ゆっくりと腰を打ち付ける。



 自分が果ててしまえば、この逢瀬は終わる。どれだけほだされた頭でも、それだけははっきりとわかっていた。

 この声も表情も、衣服の下の素肌も全部、もう2度と見れなくなる。それでも、終わらせなければならない。

 だからななこの奥に欲を吐き出した。





 ーーーななこは綺麗だった。愛していない男との仏前結婚式で、白無垢に身を包んだ彼女は本当に美しかった。
 それは花婿の男、その後ろ盾の由緒ある屋敷の前で執り行われていた。真剣な表情で三三九度の杯を交わす、紅の引かれたくちびるはあの日オレが奪えたものだったのに。

 木の陰から遠く、彼女を盗み見る。すると、ざぁ、と風が吹いた。ななこはおもむろに顔を上げ、空を見上げている。

 ぱちり、と視線が交わった。それはななこが顔をこちらに向けたからそう感じただけだと思ったが、白無垢の袖から出た指先がそっと自分の腹を撫でている。
 彼女は微笑んだ。そして口の前に人差し指を立て、しーっと聞こえてきそうなくちびるの動きに、オレはただごくりと生唾を飲み込むことしかできなかった。
 
( back )
人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -