7
ご飯を食べ終わった後、2人はソファに座ってテレビを見ながらしばらく談笑していた。
(いつも家に誰も居ないから、こんな風に家で誰かと過ごすの幸せだな……)
紗良はそんな風に考えていた。
気づけばあっという間に時間は過ぎ、時計を見るともう9時になっていた。
「あ、もう9時だね……」
「あーほんとだ。そろそろ帰るよ」
「うん……」
「長居しちゃってごめんね」
「ううん。私、いつも家に一人でちょっと寂しかったから、今日は赤羽君が来てくれて、嬉しかったな」
紗良は微笑んで、隣に座っているカルマにそう言った。
カルマはほんの少し意表をつかれたような表情をして、
「……そんな風に言われたら帰りたくなくなるじゃん」
そう言うと、カルマは紗良の方へ距離を詰めてきた。
「えっ!?」
紗良はなんとなく後ずさる。
そのままソファの端まで追いやられてしまった。
カルマは片手を紗良の傍らにつき、見下ろすような形でこういった。
「っていうかさ、駄目だよ紗良ちゃん。こんな時間に、誰も居ない家に男を招き入れちゃ」
カルマのいつもと違う雰囲気に紗良は少したじろぐ。
「あ、あの……」
逃げようとするが、紗良はカルマの腕とソファの間に挟まれ逃げられない状況だ。
カルマはさらに顔を近づけると、紗良の耳元でこう囁いた。
「襲われても、文句言えないよ?」
普段より少し低い声でそう言われ、びくり、と紗良の肩が震えた。
紗良は懇願するような目でカルマのことを見上げる。
「で、でも……赤羽君は、そんな事する人じゃない、でしょ……?」
「……」
「あ、赤羽君……?」
しばらくの沈黙の後、カルマは呆れたようため息をついた。
「ほんと、紗良ちゃんって……」
「え……?」
「いや、なんでもない。帰るね」
そう言い、ポンと紗良の頭の上に手を置くと、カルマは荷物をもってドアの方へと歩き出した。
「えっ! あ、玄関まで送るよ!」
一瞬呆けていた紗良だったが、帰っていくカルマを慌てて追いかけた。
「ありがとね。ご飯ご馳走してくれて」
カルマは玄関で靴を履きながら、紗良の方を振り返りそう言った。
すっかりいつも通りの雰囲気に戻ったカルマの様子に紗良は安堵する。
「こちらこそ、今日は色々ありがとう。楽しかった。良かったらまた食べに来てね」
「……また来るよ。でもほんと、簡単に他の男を家に入れちゃ駄目だよ?」
「う、うん。分かった」
「じゃあね、紗良ちゃん」
「うん、バイバイ、赤羽君」
紗良はカルマに小さく手を振り別れを告げた。
今日は楽しい1日だったな、と思う紗良だった。
幸せな時間 end
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