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今日は、球技大会の日だ。
E組は本戦にはエントリーされずキシビジョンに参加する決まりになっていて、現在グラウンドではE組男子と野球部の試合が行われている。
E組の女子たちは自分たちのバスケの試合を終えた後、その応援に来ていた。
紗良はフェンス越しに試合の様子を眺めながら、疲れたように小さく息を吐いた。
(はぁ。なんだか頭が痛いし、少しふらふらする……)
先ほどのバスケの試合の疲れもあってか、照りつける夏の強い日差しに紗良は少々バテ気味だった。
(だけど、みんな頑張ってるし……。私も応援、頑張らなきゃ)
よし、と気合を入れ直して、グラウンドの方へと視線を向ける。
E組は球技大会でも見せ物にされるというのが通例だったが、今年のE組はやる気が違っていた。
特に男子は本気で勝ちに行くつもりのようで、放課後に殺せんせーによる特訓をしたりもしていて、もしかしたら野球部相手に本当に勝ててしまうかも、と紗良も期待を抱いていた。
次の打順はカルマからのようで、ベンチから立ち上がり打席へ向かう準備をはじめた。
紗良がその様子を眺めていると、カルマと目が合い、紗良は軽く手を振った。
するとカルマがこちらの方へと歩いてきて、どうしたんだろうと紗良は少し首を傾げる。
カルマはフェンス越しに、訝しむように紗良の顔をじっと見ると、こう言った。
「ねぇ、紗良。体調でも悪い?」
紗良はぎくりと肩を揺らす。
「えっ。ぜ、全然。元気だよ……?」
紗良は笑顔でそう答えるが、カルマは納得していないようで眉をひそめる。
「顔色、悪いんだけど」
「き、気のせいだよ。大丈夫」
「ホントに?」
「……」
紗良は口ごもり、気まずそうに俯いた。
「……ちょっと、頭痛とめまいがするだけ」
「やっぱり。大丈夫じゃないじゃん。休んできなよ」
「で、でも、野球の応援したいし……!」
「だーめ。こんな炎天下に立ってたら悪化するでしょ。いいから保健室行って」
有無を言わさぬような口調でそう言われ、紗良はしぶしぶ頷いた。
「分かった……」
「茅野ちゃん、悪いけど紗良の事保健室まで連れて行ってくれる?」
「うん、任せて。紗良ちゃん、保健室まで歩ける?」
「うん。ありがとうカエデちゃん。……じゃあ頑張ってね、カルマ君」
「ん。ちゃんと試合には勝つから、こっちは心配しなくていーよ」
そう言ってカルマは打席に入っていった。
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