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翌朝、紗良は律の姿を見て言葉を失ってしまった。

「おはようございます、皆さん」

始めてE組に来た日のように、律は口だけをぱくぱくと動かして、無表情で挨拶をする。
昨晩、開発者が暗殺に不必要なものはすべて取り去ってしまったらしく、律はすっかり元の状態に戻ってしまっていた。

「今後は改良行為も危害とみなすそうだ。開発者の意向だ。従うしかない」

「開発者とはこれまた厄介で……。親よりも、生徒の気持ちを尊重したいんですがねぇ」

「……攻撃準備を始めます。どうぞ授業に入ってください、殺せんせー」

ダウングレードしたということは、またあの迷惑な射撃が1日中続くということだろう。
だけど紗良はその事よりも、昨日の、みんなと楽しそうに笑顔で話をする律にもう会えない事が悲しかった。

ガコンと機械が動く音に、皆が身構える。
しかし出てきたのは銃ではなく、色鮮やかで綺麗な花束だった。

「花を作る約束をしていました」

教室内に花びらがひらひらと舞い散る。
たくさんの色とりどりの花の中に、昨日紗良が律に作って欲しいと頼んでいた花もあった。

(律、覚えててくれたんだ……!)

驚きと喜びで、紗良はぱあっと表情を明るくする。

「殺せんせーは、私のボディーに計985点の改良を施しました。そのほとんどは、開発者が『暗殺に不要』と判断し、削除・撤去・初期化してしまいましたが、学習したE組の状況から、私個人は『協調能力』が暗殺に不可欠な要素と判断し、消される前に関連ソフトをメモリの隅に隠しました」

「……素晴らしい、つまり律さん、あなたは」

「はい! 私の意志でマスターに逆らいました」

液晶に映る律の笑顔は、昨日と全く同じ、とても楽しそうな笑顔だった。

隣でカルマが楽しそうに「やるねぇ」と呟く声が紗良の耳に届く。
昨日は律の事を「ただプログラム通りに動いているだけ」だと言っていたカルマだったが、やっと単なるプログラムではなく"律"として認めたようだ。

「殺せんせー、こういった行動を『反抗期』と言うのですよね。律は悪い子でしょうか?」

「とんでもない、中学三年生らしくて大いに結構です!」

こうしてE組に新たな仲間がひとり加わったことを、紗良は嬉しく思うのだった。



転校生の時間 end
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