週一のHRが終わって、筆記具を仕舞っていると、赤音がつんつんと僕をつついた。

「池鶴、今日これからまだ何か授業入ってたっけ?」
「うん」
「一つ?」
「うん、そうだよ」

 それがどうかしたんだろうか? 僕は首を傾げる。赤音はううんと唸ると言いにくそうに口を開く。

「あのさぁ、買い物付き合ってくんねえかな。あ、別に今日じゃなきゃいけないってわけじゃないから、無理ならいいんだけど」
「うーん、多分大丈夫だと思うけど…待たせるよ?」
「それは大丈夫。暇つぶして待ってるから」

 赤音はぐっと親指を立てる。僕は赤音がそう言うならと頷いた。ちらちと時計を見て、ささっと机の物をリュックに入れる。

「じゃあ、また後で」
「おー」

 赤音はスマホを片手に手を振ってくる。それに応えて、教室を出た。










「あ」

 次の授業がある場所に向かっていると、近くで誰かがぽろりと声を出す。僕は何となくそっちを見て、硬直した。久城先生だ。久城先生は僕と目が合って、にやりと笑うと、こっちに向かって歩いてくる。僕は慌てて会釈した。

「よう、池鶴。いいところに」
「え…?」

 いいところに?
 嫌な予感がして、後ずさる。しかし先生にがしりと肩を掴まれ、ひいっと情けない声を出した。

「まあ待て。まだ次の授業は始まらねえだろ?」
「は、はい…」
「お前に頼みてえことがあるんだ。安田と仲が良いっつってただろ? 至急届けないといけないプリントがあってな。お前に持っていってほしいんだ」
「えっ!?」

 やっ、安田くんに!? 話したことさえないのに!?

「今はそのプリント持ってねえから、授業終わったら職員室来てくれ」
「い、いや、でも…。家、知らないです」
「地図渡す」
「というか、あの、先生が渡せばいいんじゃ…?」
「会議があるんだよ。悪いな」

 僕は力なく返事をした。なんでこんなことに…。いや、僕が悪いんだけど…。
 安田くんって、不良っぽいというか、僕の苦手なタイプだから今まで避けてきたけど…今回ばかりは、無理そうだ。

「じゃ」

 久城先生はそう言ってさっさと歩いて行ってしまった。僕は憂鬱な思いで教室へと歩き出し、ハッと思い出す。
 赤音と約束したんだった…!