僕の転入した高校は特殊だ。何が特殊なのかというと、まず、制服があってないようなものだ。私服が嫌な人は制服を着ているけど、大体が私服だ。校則も緩くて、染髪やアクセサリーの装着は自由らしい。
 そして、一週間に一度、絶対に受けなければならない授業が組み込まれている。その日は一日中クラスメイトと過ごすことになる。でも、他の四日間は自分が受けたい授業を受けることができる。その中には選択必修科目も存在するから、上手く組み込まなければならない。最初に色々な授業の時間が書かれた表を貰って目眩がしたほど、膨大な数がある。
 僕が久城先生に面識がなく、クラスメイトにあるのにはこれが関係している。久城先生の授業を取っているのだ。久城先生の授業は人気で、直ぐに人数が達してしまうらしい。
 今日は選択必修科目が入っている木曜日。科目は体育で、僕は卓球を選択した。卓球は良い。あまり動かなくて済むし、他人にあまり迷惑をかけない。僕はバスケとかバレーとか、ああいう大人数でやる競技は向いていない。先生は女の先生で、サバサバした先生だ。しかし、体調を崩したらしく、今日は臨時の先生が来るらしい。厳しい先生じゃないといいな、と僕は不安になりながら先生を待った。授業開始まであと五分。先生は未だ現れない。

「ねえ」
「へ、っえ?」

 隣に座ってた女子が突然僕に話しかけてきた。彼女とは数回、試合の時に話したことがあるだけだ。ちょっと化粧が濃くて、所謂ギャルというカテゴリーに属される人だ。僕は毎回キョドってしまう。最初訝しげな様子だった彼女は、もう慣れたのか、普通に会話を進めるようになった。

「あのさぁ、私聞いちゃったんだけど」
「…な、何を?」

 真剣な顔付きで見つめられる。女性に見つめられて、ではなく、違う意味で僕はドキドキした。彼女の目力は…凄い。

「臨時のせんせー、クジョーらしいよ」
「……え?」

 まさか、と思う。だって教科が違う。僕は何て答えたらいいか分からず、視線をうろうろと動かした。
 彼女は僕の答えなんて求めていなかったのか、気がついたときには違う女子と話をしていた。僕は不安で押しつぶされそうになりながら体操座りをして膝に顔を埋める。久城先生が来たら、どうしよう。見るからに鬼コーチみたいな雰囲気をしている。やだ、やだ。僕、絶対呆れられる。