「朝陽くん、今日は何ともなかった?」
「うん、大丈夫だったよ!」
「そっか、良かった。何かあったらすぐに俺に言ってね。助けるから」
「うん! ありがとう!」



 ぽんぽんと肩を叩かれ、僕は浅い眠りから覚めた。眠い目を擦りながら顔を上げると、先生だった。数学担当で、おっとりした雰囲気の近木先生だ。

「池鶴くん、よく寝ていたね」
「あ…」

 授業が始まっている。僕はバッと体を上げて姿勢を正す。周りからくすくすと笑い声が聞こえて恥ずかしくなり、俯いた。

「黒板に答え書いてきてね」

 復習だから、できるはずだよとにこにこと笑う。僕は黒板を見た。確かに、以前やった内容だ。これならばできる。続々と立ち上がる当てられた人たちを見ながら慌ててノートに解いていく。公式を当て嵌めれば、すぐに答えが出た。他の人に遅れないように僕も立ち上がる。式を書いていき、席に戻る。近くにいた先生がチラリと黒板を見た後、僕に視線を向けた。そしてにこりと笑う。

「うん、正解だ」
『うん、良くできたね』

 その時、記憶の中の彼と先生が重なる。あの人も、お面の下ではこんな風に笑っていたんだろうなぁ…。懐かしくなって目を細める。初めて会ったあの日から、僕は彼――般若ヒーローに懐いた。憧れだった。

「はい、じゃあ答え合わせするよー」

 近木先生もあの人に似ている。背丈も同じぐらいだろうし、柔らかな声をしている。それに、あの人は若そうだったから、時が経った今頃は、先生くらいだろう。僕は近木先生が般若ヒーローだったらいいのに、なんて都合の良いことを考えた。