ほら、と威張るように言う文月にこっそり苦笑した。これで先生は帰るだろうと思っていたら、じっと久城先生に見られていることに気づき、体が硬直する。

「本当かぁ?」
「本当だって」
「お前に訊いてねーよ。俺が訊いてんのは池鶴」
「え、…っ」

 怖い、と思った。カチコチに固まっている僕の肩を叩き、文月が溜息を吐く。

「ちょっとクジョーセンセー。ただでさえ顔怖いのに、睨むなよ。池鶴怖がってんじゃん」
「ただでさえ顔怖いのにって失礼な奴だな。…兎に角、寝るばっかりじゃなくて仕事もしろよ。あと、池鶴も話合わせるな」

 呆れた表情で僕らを見ると、本を持って図書室を出て行った。残された僕らは図書室のドアを見る。

「…もしかして、久城先生ずっといた?」
「え?」
「あれは絶対俺が寝てたの見てたんだろうなぁ…」

 言われて、ハッとする。そういえば、僕が来た時あの本は本棚に入っていなかった。それを先程借りに来たということは、ここで読んでいた可能性が高い。カウンターに頬をくっつけて、減点されたらどうしようと嘆いている文月。そんな文月を見ながらそれにしても、と思う。

「久城先生と知り合いなんだね」
「ああ、まーね」
「どんな人なの?」
「見てのとーり。まああんだけ顔もいいし授業も面白いから人気だな。横暴なところが難点だけど。池鶴も知ってるだろ? 名物鬼ごっこ」
「ああ、うん…」

 先程の怒鳴り声を思い出し、苦笑いする。今まで想像でしかなかった先生の走ってる姿が頭に浮かぶ。じっと見つめられているだけで怖いんだから、追いかけられるともっと怖い顔なんだろうなぁ…。