総括『たとえばこんな両想い』-樺地、日吉、鳳



温めたティーポットに人数分+1杯の茶葉を入れて、熱湯をそそぎ蒸らす樺地の手つきは、もはや手慣れたもので無駄がひとつもない。
マレーシアビーチでのバカンスから帰ってきた鳳のお土産・B●Hティーのゴールデンブレンドの良い香りが漂ってくる部活開始前の部室には、『お茶受けも頼むなぁ〜』なんてのほほんとソファに座る上級生眼鏡と、すでに着替え終わりジャージ姿の1年生、お土産のクッキーをあける鳳と、無言で眺める日吉の計四人だけ。

どうやら2年生は本日7限まであるようで、部活開始も他学年よりは遅くなるらしい。
…のだが、何ゆえ目の前の上級生眼鏡は部室にいるのだろうか?

サボリか、はたまた彼のクラスだけ6限で終わりなのかはわからないが、まぁ自分だち1年生には関係の無いことかと特に上級生へ問うこともしなかった。

だが。


1年生らが無言なのをいいことに、懇々と語りだしたストーリーがトンデモナイ内容だとは、思いもよらなかったワケで。


「あの、忍足先輩」

「なんや日吉。羨ましいんか〜?」

「…部活始めませんか?」

「樺地がお茶淹れてくれたばっかりやんか。それに、他の2年が来るまでは自主練やで?」

「じゃあ、俺は自主練に―」

「まぁ、待ちや。せっかくの鳳のマレーシア土産やねんから、一杯味わうくらいせんと」

「…まぁ、そうですけど」

「そんでな、アイツもじもじして、顔真っ赤にして、可愛いったらないなぁ」

「……」



千の技を持つ男として多彩なテクニックを放ち、感情を隠して手の内を見せずプレーする冷静なスタイル。
下克上を果たすべき先輩の一人ではあるけれど、目のまえでトンデモナイことを語る姿は情けないという一言以外、表せない。


(おい、鳳―)

(う〜ん、どうしよう日吉)

(知るか!お前がなんとかしろよ)

(忍足先輩は空想癖があるって宍戸さんも言ってたんだけど)

(これは空想というか、妄想だろ…というか、何で芥川先輩なんだ)

(だよねぇ。たいがいアイドルだって聞いたんだけど)



中等部の頃はただのチームメートな関係だったらしい二人の先輩。
それが高等部に進学し、同じクラスになってから距離がぐっと近づいて、互いに意識するようになったのだという。
いよいよ想いも最高潮となり、告白になるのは自然の流れといえよう。
風になびくふわふわの髪が太陽の光に照らされ金色に輝き、恥ずかしげに照れながら微笑む彼は、たまらなく愛らしく可愛い。
健全な高校生同士の恋愛の始まりは、こうでないと。


…なんて満足げに語る先輩の話しを聞いている最中なのだが、どうしたもんかと迷う1年生二名。


(健全な高校生同士はともかく、なんで女子じゃないんだ?)

(さぁ……でも、そんなに仲よかったっけ?忍足先輩とジロー先輩って)

(芥川先輩が足蹴にしているのは見たことある)

(だよねぇ。どっちかというと、相手にされてないような)

(お前の言い方もどうかと思うが……というか、忍足先輩と芥川先輩って、クラス違うよな?)

(一年の時も、確か違うはずだけど……あれ?一緒だったっけ?)

(……違います)

((樺地!))


樺地が言うのだから間違いないだろう。
1、2年ともにクラスメートではない忍足と芥川。

となると、先ほどからあーだこーだ語る先輩の話は、全て空想―もとい、妄想か。



「あの、忍足先輩」

「なんや日吉。もっと聞きたいんかー?」

「違います(即答)。芥川先輩が『侑ちゃん』て言うときって、たいがいが―」

「あんな可愛い顔で『侑ちゃん』なんて言われたらたまらんわなぁ」

「違います(即答)。いつも騙すときか、からかうときか、馬鹿にするときに言って―」

「あー、聞こえんなぁー」

「くっ…相変わらず都合のいい耳ですね」

「日吉…」

「鳳!お前も何とか止めてくれ。これ以上馬鹿な話に付き合うワケには」

「無理だよ。宍戸さんでも止められないって言ってたし」

「宍戸先輩は無理でも、俺たちならできるかもしれないだろ?!」

「そうかな……宍戸さんでも出来ないことなのに」

「お前はいい加減に宍戸先輩から一人立ちしたらどうなんだ」

「え?やだな日吉。何言ってんだよ」

「〜ったく、どいつもこいつも…」



こちら側にたって欲しい同級生は、いったいどの立場をとっているのか、ただ単に係わり合いにならないようにしているのか。
これ以上聞きたくないので止めようとするも先輩は一向に口を閉ざさないし、隣の同級生は助けになってくれそうにない。
一人だけでも部室を出てコートに入ろうかとも思えど、マレーシア土産の紅茶をせめて一杯は飲み干さないと、隣の同級生が『お土産、気に入らなかったかな…』なんて見当違いな落ち込みを見せるに違いない。
変なところで育ちのよさと気遣い精神が発揮されてしまうのか、日吉にはここから立ち去ることも出来ず、先輩を止めることも出来そうになかった。


トントン


「樺地…」

「……もうじき、先輩たちが、きます」


それまでの辛抱だと言わんばかりに肩を叩かれて、それまで我慢しなければならないのかと肩を落とした。


―跡部部長、一発殴ってやってください。



最近はイベント準備で忙殺されている生徒会の面々を思えば、今日の部活に部長が顔を出すかは怪しいところだが。
最後のほうに少しだけでも姿を見せたら、とりあえず部長へ『先輩をなんとかしてください』と申し出ることにしよう。
同じ上級生の宍戸に止められないということは、問題の先輩とダブルスを組んでいる向日にも無理な話だろう。
肝心の当事者とされている居眠りな先輩に言えば一発だろうか?
いつかの光景のように、『うざい』と跳ね除けドロップキックでもかますかもしれない。

部長でも芥川でもどちらでもいいので早く来てくれと、今はただひたすら願うばかりだ。





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>>短編5『たとえばこんな、両想い』を語る忍足と、黙って聞く樺地、冷たい表情で苦悩する日吉、困り顔で日吉に頷く鳳。

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