From 跡部景吾 ―忍足にはしばらく近づかないように。常に向日か宍戸と行動をともにしろ。 From 滝萩之介 ―今どこにいるの?宍戸と向日が探してる。ジロー、いい加減に携帯の電源いれてよ。 From 宍戸亮 ―どこで寝てる。電話にでろ。校門で待ってるから、とっとと来い! From 忍足謙也 ―侑士がうざいねんけど、何かされたんか!?遠慮せんと俺に言え!侑士のこと叩きのめしたる。…たまには返信してや。 From 向日岳人 ―今日からしばらく一緒に帰る。明日も朝迎えにいくから。とりあえず校門に来い。 From 樺地崇弘 ―跡部さんの電話に出てください。探しています。 From 日吉若 ―忍足先輩を何とかしてください。もう相手できません。 From 鳳長太郎 ―宍戸さんが探してましたよ?ジロー先輩、今どこですか?? 部室で着替えた後、宍戸に『待ってろ』と言われたため裏庭の低位置ともいえる自販機隣のベンチでうとうとしていたら、すっかり日も暮れてしまった。 カバンの携帯をチェックしてみたら、怒涛のメールラッシュに着信の嵐。 いつもの氷帝メンバーはまだわかるけれど、その中にしつこい関西人を見つけて、今度は何の用だと眉をよせる。 「あとべ…?ていうか、オシタリが何なの」 理由は謎だが近づくなという跡部のメールに、意味わかんねぇと呟きながらも理由無いことはしないはずの王様なので何かあるのだろうと次のメッセージへと進む。 「お萩に宍戸、岳人か……あ、やべ。校門いかねぇと。てか何で『しばらく一緒』?」 とりあえずは幼馴染二人が校門で待っているというので向かうとするか。 しかし、部室を出てから1時間近く経過していて、空も真っ暗なことを思えば二人ともとっくに帰っているのかもしれない。 「う?樺ちゃん、オオトリ、…ひよCも?」 跡部と宍戸が探していて、…ここでも忍足? 誰もかれもがよくわからないことを自分に忠告してきていて、遠く大阪の地からも『侑士が云々』ときたら、忍足が何かをしでかしてそれに自分が巻き込まれようとしているのかと察せられるというもの。 校門にいなければそのまま帰宅し、夕食後に隣の岳人の部屋にお邪魔して何があったか聞くべきか。 面倒くさいのでそのまま寝てしまいそうだが、それはそれで後々幼馴染二人に挟まれ怒られる気もするので、校門にいなければその時に考えるとしよう。 リュックを背負い、校門へ向かおうとしたが途中部室の明かりがついていることに気づき、跡部でもいるのかと立ち寄ることにした。 …のがまずかったのか。 「…あれ?アトベじゃねぇし」 「なんやジロー、まだ帰ってなかってんか」 「………オシタリ?」 噂の忍足侑士はこんな時間まで何しているのかといえば、……掃除? 「なんで掃除してんの?」 「部長サマの命令や」 「……ナンデ?」 「『俺様の耳を汚した責任』やて。激しく納得できんけど、宍戸も岳人も、1年トリオまでも同意して一斉に責められたら、まぁしゃーないわ」 「トリオ…樺ちゃんまで同意するって、よっぽどのことしたんじゃねぇ?」 「ただのお茶目な未来予想図を語っただけなんやけどな〜」 「……あっそ」 つまりはいつもの妄想か。 もう用は無いとばかりに背を向けて、部室を出ようとしたら急に腕を掴まれる。 さらに体をトンと押されたため、そのままソファへ沈んでしまった。 「なんだよ〜オレもう帰るC」 「もうじき終わるから、一緒に帰ろうや」 「やだ」 「まー、そう言わんと。特大豚マン奢ったる」 「……しょーがねぇ。早くしてよ」 「はいはいっとな〜。せや、待ってるついでにお前にも『未来予想図』聞かせてやろか〜」 「……」 それが原因で皆が怒り、今の部室掃除に繋がっているのではないのか。 さらにはあれだけメールで『近づくな』と幾人からも忠告されたとなると、今回の妄想がいつものアイドルやアニメではなく、いや、そうなのかもしれないけど、そこに自分が巻き込まれているのは想像するに易い。 聞いても何の足しにもならないと確信しつつも忍足を止められるだけのボキャブラリーも無ければ、そもそも介入するのが面倒くさい。 特大豚マンを捨ててでも帰る方が正解な気もするけれど、ドアへ向かえばどうせ先ほどのように掴まれてまたソファに追いやられるに違いないと思えば、じっと耐えて聞くしかないのか。 そして。 ― 数分後 ― 「……」 「やっぱラブラブな高校生同士の純愛が一番ステキや思わん?」 「……」 「それとも、ちょっぴり小悪魔なエロテイストがええんやろか。まぁ、あっちも捨てがたいけどなぁ」 「……」 「なー、ジローはどのパターンがええと思う?やっぱ本人に聞かな終わらんしな〜」 もうやだ。 やはり部室に寄らず真っ直ぐ校門へ向かえばよかった。 たとえ再び腕を掴まれたとしても、忍足の急所を蹴ってでも逃げるべきだったに違いない。 「今日一日中、そんなこと考えてたワケ?」 「一限から七限まで、ストレートやで」 「…あっそ」 「久々に充実した内容やったから、ええ時間を過ごせたわ。で、どれが一番や思う?」 「……そういう忍足はどのパターンがお気に入りなの?」 ―クールでどこか大切な部分が欠落している淫乱な部分はたまらなくエロくて美味しかったけれど、やっぱり甘あまでラブいやつがラブロマンス好きとしては推したいところ。 ただ、社会人編か高校生編かは悩みどころだ。 なんてことをツラツラ述べる変態眼鏡に、さてどうしてやろうかと考える。 跡部は『近づくな』、日吉は『なんとかしてください』、そして関西人は『侑士がうざい』といった。 基本的に、変態眼鏡の従兄弟に対してはぞんざいな扱いをしている自覚はあるが、『侑士がうざい』には唯一同意できるので、後で返信してあげよう。 …下手に返信すると、途端に長文のメールを送ってくるのが、それこそウザイのであまり返信はしたくないのだけれど。 「おめぇ。オレをどうしたいわけ?」 「気になるんか?」 「…正直気にしたくないけど、気にしないと危険な気がしないでもない」 「なんやよーわからんこと言うなぁ」 「わからんのはおめぇだし…」 掃除を終えて用具をしまっている忍足の背中を見つめ、これは危険かただのアホ妄想で暇つぶしをしているだけなのかをジャッジしようと頭をフル回転させる。 …が、アホの思考はわからない。 とりあえずノって見るかと、忍足のいう『意外性』パターンの仮面をかぶってみることにした。 「ねぇ。5回もそんな妄想するってことは、オレとどうにかなりたいわけ?」 「どうなんかなぁ〜。俺も意外やってんけど」 「やりたいの?」 「なんや、やらせてくれるんかーってな」 ソファから起き上がると、制服のジャケットを着てテニスバッグを持とうとした忍足の元へと歩み寄り、その手を掴んで先ほどやられたようにソファへとなげつける。 咄嗟のことに少々びっくりしている忍足の眼鏡を外してテーブルに置き、そのままひざの上に乗ってみた。 「ジロー…?」 ネクタイを緩めて、自身のシャツのボタンを上から外していく。 このままネクタイで変態眼鏡の首を絞めてやろうかとも思ったが……いけないいけない。 アホ眼鏡へのお仕置き―というか、びっくりさせて青ざめさせないと。 「忍足が望むなら……でも、一回だけだからね」 にっこりと意味深げな笑みを浮かべて、彼の妄想と同じ台詞をはいてやる。 「…俺、まだ妄想中なん?」 「何言ってんの。もう起きてる。こうしたかったんでしょ」 はっきりいって寒いのでやりたくはないが、ここは仕方ないとばかりにシャツをぬいで上半身裸になり、『妖艶な笑み』を意識しつつ、忍足の胸に手をあてて薄く笑った。 「さぁ、どうする?『侑ちゃん』」 耳元で誘うように囁き、反応を見ようと真正面から眼鏡の無い瞳を見つめる。 慌てて『すまん、冗談やってん』と謝ってくるか、固まるか、はては大笑いしてくるか。 ノってくるとは欠片も思っていなかったのは芥川の過失かもしれない。 跡部の言うとおり、近づくべきではなかったのかもしれない。 まさかの反応をしてくるなんて、夢にも思わなかったのだから。 正面から覗き込んだときはきょとんとしていた双眸が、数秒たつごとに光を取り戻し力強さを宿していく。 面白そうなものや、新しい玩具を前にしたかのように、上に乗る芥川を見つめ返す両の目はどこか楽しそうだ。 「予想外の展開やけど、据え膳っちゅうヤツやんなぁ」 「へ?」 あ、まずい……。 (オレ、間違えた…?) 逃げるしかない! 放り投げたシャツはどこだと周囲を見渡し、床のラグマットに落ちているところを見つけ、すぐさま拾いに行こうと忍足の膝の上から降りようとしたら、またしても腕を掴まれた。 「誘っといて逃げるなんて、あかんで?」 「ちょ、ちょっと、オシタリ?」 ―目がマジなんですけど… 小さな呟きは、忍足の影に飲み込まれていった。 ―さて、これも妄想なのか、はたまた現実か。 (終わり) >>目次 |