チームメートの石田の銀さんからいただいた京都土産の宇治茶をいれて、パソコンに向かうこと数分。 お気に入りのサイトチェックと調べ物を少々していたところで、東京で暮らす従兄弟から電話がかかってきた。 たまに電話で会話しあう仲でもあるので、何ともなしに通話を押して、いつものように世間話が始まると思いきや、語られたのは意外すぎる内容で。 『いやぁ、お前とキョーダイになるなんて思ってもみんかってんけどなぁ』 「…何言うとん?それ、ただのいつもの妄想やんな?」 『ちゃうで。生々しい話や』 「!!侑士、お前、まさか芥川に」 『ふっふっふ』 「な、な、ま、まさか」 『聞きたいか?』 「嫌がるアイツ押さえつけて、手ぇ出したんちゃうやろな!?」 『別に嫌がってなかったで?』 「!!」 『慣れてたし』 「!!!」 『お前もお願いすれば、ヤらせてくれるんちゃうん?…あ、違た。謙也のが先にヤってたんな、そういえば」 「…?は?」 『あやうく設定間違えるとこやった。せや、お前が先やねんな』 「…何なん?結局お前の妄想なん?その話」 『妄想ちゃうで』 「あ〜っ!!ワケわからん!!妄想はええから、本当のこと話せや」 一人暮らしの高校生にしては豪勢なマンションで好き勝手している高校生活。 授業をサボって屋上で寝ころがっているチームメートにちょっかい出して関係を結び、気を失った彼を部屋に連れ込んで押し倒し、一晩中好き放題したという。 もう無理だと泣いて嫌がる相手にお構いなしで攻め続け、ベッドで気を失ってもなおも後ろから突いた結果、翌朝彼は腰が抜けて立ち上がれなかったのだとか。 …といいますかね、もうこれも3回目ですけれども。 「誰が一人暮らしやねん」 『俺や、おれ』 「何言うとん?伯父さんも伯母さんも、エリ姉も一緒やんけ!」 『せやったか?』 「アホか!なんや、結局お前の妄想なんか!?」 『どうやったかな〜』 「芥川で変な妄想すんなや!!」 『お前かて頭ン中でジローとあーだこーだ、考えてんのちゃうん?』 「うっ…」 『それと一緒やで?』 「一緒にすんな!!」 『謙也も好きにしてんねやろ?ジローを脱がせて手ぇ肌に添わせて―』 「止めやっ!!ほんま、まじ、何なん!?」 『ジローが拒まんねやから、そりゃ据え膳はいただかんと』 「…お前の妄想は小さい頃からでよ〜わかっとるけどな、いちいち言わんでええねん!」 『壮大な話になったから、是非聞かせてやりたいいう親切心をー』 「いらんっちゅーねん!!」 『ジローの話なら、謙也も聞きたい思てな』 「実際の芥川の話ならともかく、お前の妄想の出来事なんていらんわ!!」 中学時代の合同合宿中、休憩時間に大きな木の根元で、体を丸めて寝ている姿をよく目にしていた。 どういうタイミングだったのかは覚えていないが、寝転がる彼のもとへ飛んでいったボールを回収しにいき、周囲に『寝太郎』だ『寝ぼけヒツジ』だ、果ては直属の後輩にまで『あの人、寝すぎですわ』なんて興味をもたれるほどの他校生の彼を、初めて傍でじっくりと見た。 幸せそうにウトウトと眠る顔に、ノックアウト。 後に、そのとき隣にいた白石に『人が恋に落ちる瞬間を初めて見た』と言わしめた、いわゆる一目ぼれの一幕。 それまでさほど接点や話したことは無かったのだが、意識をしだしたらもっと話せなくなった。 白石の計らいでご飯時に同じテーブルになったり、風呂上りの卓球で対戦相手に呼んできてくれたりと多々接触を試みるも、面と向かって顔を見ることが出来ず、その時は何度もこの従兄弟に間に入ってもらいクッション剤のようにいい具合におさまってくれたこともあった。 さすがに常にしどろもどろながらも、何度も話しかけたり、チラチラ姿を追っているうちに多少の不信感は持たれた。 さらに、この従兄弟や彼の周囲が何を吹き込んだのか謎だが、突如冷たい返しをされるようになり、天真爛漫で可愛い笑顔で清純・純粋の塊だと信じていた彼から放たれる辛らつな台詞に傷つくこともあったけれど。 それでも彼の言葉に凹む姿を見せると、少し申し訳無さそうに近寄ってきては、謝りはしないものの話しかけ、こちらの気分を浮上させてくれるたびに、優しい子なのだとさらに好きになったものだ。 大阪と東京で距離は遠いけれど、もっとお近づきになりたくて事あるごとに従兄弟のもとへ遊びに来ては商店街へ遊びにいくことを繰り返して早2年。 それまでは『まー、頑張りや』と言っては何気に協力―とまではいかないまでも、商店街へ連れて行ってくれたり、彼のよく行くカフェやお店へ偶然を装って会わせてくれたりとしていたこの従兄弟が、まさかこんな電話をしてくるとは。 (まさか、侑士も…?) 一抹の不安を感じつつも、いつもの妄想の範囲でおさまってくれと祈りながら、電話口で文句を返しまくる一夜だった。 >>総括4へ >>目次 |