カフェテリアで注文したカプチーノに、シナモンパウダーを追加して、最近急に肌寒くなり『秋めいた』空を眺めながら、一口飲んでみた。 最近までずっと暑かったのでアイスコーヒーやアイスティ、炭酸、と冷たい飲み物ばかりだったが、こういう涼しい日は温かいものでほっこりするのもいいものだ。 …隣に、気持ちわるいことをツラツラ語るキモ眼鏡がいなければ。 「いやー、まさかアイツがああいうタイプとは思わんかったけど、意外性もアリやな」 「……」 「実はエロイなんて、大歓迎やん」 「……」 「はぁ〜もっかいこの設定で想像してみるか。ほんなら5限もあっという間やな〜」 曰く、夏に行われた臨海学校で脅かし役となったが面倒くさくて、見つからない場所でひたすら時が経つのを待っていたらしい。 そこへ肝試しに参加中ペアと逸れてしまい、一人歩く同級生を見かけては、ひとけの無いところでアレコレとイケナイことを仕掛けた云々。 ……。 いや、大前提として― 「…つーかよ、うち(氷帝)、臨海学校なんてねぇだろ」 「せやったか?」 「ねぇよ。イベントはたいがい海外だし」 「遠足も修学旅行も全部海外やんなぁ」 「跡部がきてからだぜ。学校で海行くなんてこともねぇし」 「夏、海に行ったやん」 「アレは跡部の別荘で、学校単位じゃねーだろ」 「ほんなら跡部の別荘での出来事に書き換えよかー」 「……あのよ、お前がどんな妄想を繰り広げようが関係ねーし、好きにやればいいんだけど」 ウットリと何かを思い浮かべてはニタニタしているキモ眼鏡を心底気持ちわるいと思えど、何を言ってもなしのつぶてなのは今までの経験上わかってはいる。 だけど、絶対にありえないアイドルやアニメのヒロインではなく、その相手が小さい頃から知る幼馴染だとすれば、聞き流しておくわけにもいかない。 確かに天真爛漫で覚醒しているときは元気いっぱい。 それ以外は寝ているかぼーっとしているか、寝ぼけているときは舌ったらずで甘えた、思わず手を差し伸べずにはいられない庇護欲を抱かせる絶対的な存在―いわば無条件で守ってあげたくなる弟のような、そんな家族にも近い奴。 誰からも可愛がられ、時に鋭い本質をついてはドキっとさせられることもあるけれど、それでもキモ眼鏡の言うような『奥に隠されたエロさという意外性』などでは、決して無い。 というか、大事な幼馴染を使ってなんということを考えているのか、この眼鏡は。 「ジローで変な妄想すんな」 「頭の中は絶対的に自由な空間。誰にも邪魔させへん」 「〜っ、だったら口に出すんじゃねーよ!!一人で考えるだけにしとけ」 「日々妄想は膨らんでんねやで?お裾分けせな」 「いらねぇよ!つーか、いつものアイドルとアニメはどうしたんだよ。そっちにしろよ、頼むから」 「アイドルもアニメもええねんけど、現実的に考えたらありえへんし」 「ジローもありえねぇだろうが」 「そんなんわからんやん?」 「わかるわ!!!」 ブラウン管の向こう側の偶像であれこれ想像するのも楽しいけれど、そろそろ現実を見ないといけないので妄想の対象を身近な人物で探すことにしたというキモ眼鏡に、『ブラウン管…?てめぇは表現も古いんだよ』なんて突っ込みつつも、身近に目を向けるのは結構なことだけど、対象が身近すぎると注意を促してみるも聞く耳無し。 「フェンスで応援してるお前のファンとか(お前という男の中身をわかってねぇ女どもだけど)、クラスメートとか、他にいくらでもいるだろーが!」 「氷帝の女子はアカンやろ」 「なんでだよ」 「一人をOKしたら、他の子が可哀想やん」 「…お前のその自信は、どっから出てるんだろうな」 「キレイなオネーサンならともかく、同学年の女子は子供っぽすぎて対象外やねん」 「……アイツは『子供っぽい同学年』だろ」 「意外にエロかったで?」 「あのなぁ、ジローは男なんだよ。わかるか?オ・ト・コだ!!」 「男も女も関係あれへん。大事なのは相性やで?その点、体の相性はバッチリ―」 「だぁ!やめろ!!お前の性癖はどーでもいいけど、ジローで妄想してんじゃねぇ!」 「同意やで?」 「このキモ眼鏡がっっ!!何が同意だ」 何を言ってもこたえず、いくら文句を言えども妄想を止める気配が無い。 こうなりゃ絶対的な氷帝の王様から天誅をくらわせてもらうしかないか、と放課後部活に顔を出すであろう部長へ直訴しようとするも、部長は生徒会長でもあるため中々忙しい。 しかも来月に控えたイベントの準備で今日は部活に出れそうもないと樺地から聞き、それならば部活終了後に携帯からメールを送ろうとするも受信メールをチェックしたら、意外にも部長本人から。 そこで書かれた内容は、黒髪眼鏡を何とかするようにという命令。 こちらは部長にこそキモ眼鏡を何とかして欲しかったのだが……彼がキモ眼鏡の説教を放棄したとなれば、誰に任せればいいのか。 部長は幼馴染2人にその役目をせよとお達ししてきたのだが、正直妄想中のキモ眼鏡に近づきたくはなければ、あまり係わり合いになりたくない。 けれども、その妄想相手が大事な弟分な幼馴染とくれば、無視するわけにもいかず。 さて、どうしようか。 とりあえずしばらくは一緒に登下校しようと決めて、練習を終えて部室に戻ってきた芥川へ、着替え終わったら外で待つよう言い聞かせようと決める宍戸だった。 >>総括3へ >>目次 |