2.根掘り葉掘り聞きたいエース


紅茶の美味しいカフェが近所にできたんだよね。
茶葉だけ買うことも出来るから、寄っていこうかな。なんならお茶でもしていこうか?


その一言で、真新しい店内に足を運ぶことになった二人。
映像含めミーティングの準備と、バルコニーでバーベキューのセッティングもあるので、早めに家に行ったほうがいいのではないかとの参謀の問いは『手は多いから問題ないよ』とバッサリ返される。


「あれ?」


紅茶の缶が並ぶコーナーに、見知った他校生の姿を見つけた。
中等部の頃はあまり交流はなく、幸村が入院中に彼の中学と練習試合が組まれたらしい。
その縁で部員の一人と仲良くなり、退院して部活に顔を出すようになってからはしょっちゅうフェンス越しで声援を送る姿を目撃している。
目の前で紅茶を選んでいる彼と、4年来の付き合いとなる馴染みのチームメイトとの間で徐々に育まれた関係は、当初びっくりしたものの微笑ましくもあり、面白くもある(こちらが本音なのは間違いない)


「やぁ。何してるんだい?」

「う?…幸村くん?」


お店オリジナルのブレンドティと、アプリコットのフレーバーティの缶を持ち、交互に睨めっこしていたが、突如かけられた声にびっくりして缶を落とす……ところを、横から出てきた手がキャッチした。


「セーフ……って、柳!?」
「危うく落ちるところだったな。ほら」
「ありがと」
「一人か?」
「うん」


彼を見かけるときは、いつもその隣にもう一人の姿がある。
赤い髪と金の髪のペアは見慣れたコンビで、ここ神奈川で見かけるときはたいがいが二人セットだ。
丸井と約束でもしていたのだろうかと思ったが、お疲れ会・ミーティング・誕生会は今日決まったことでもないので、ただ単に彼が一人でここにきているのだろうと推測する。


「今日来てなかったよね?」
「う?」
「ここのカフェ、立海の近くだから。君が一人でいるのは珍しいな」


立海の練習見にいくついでならありそうだが、今日はテニスコートで見かけなかったからと告げると、目をまんまるくして、にこっと満面の笑顔と元気な答えが返ってきた。


「行こうかな〜とも思ったんだけど、先にこっち寄ってたらこんな時間になってた」


迷っちゃって、さっきカフェに着いたばっかりだと笑う顔は中学の頃と変わらず、相手もつい笑顔にさせてしまようような、朗らかで温かいもの。
そういえばチームメイトも『ジロくんは太陽』なんて臆面なく言い放っていたことを思い出す。


「丸井に会わないでいいの?」
「今日は約束してねぇから。部活も終わったみたいだし、紅茶かったら帰ろっかな〜と」
「ここ、出来たばっかりなのに、よく知ってたね」
「前きたときに見かけたんだ〜。クラスの女の子も知ってて、紅茶が美味しいってオススメしてたから」


オーソドックスなセイロン、ダージリンといったものから、お店オリジナルのブレンドや多種フレーバーティをそろえた棚。
なかでもクラスメートの女子に勧められたのは、アップル、アプリコット、オレンジ等の柑橘系フレーバーティ。
店内のカフェでイートインした、オリジナルブレンドティ&チーズケーキも美味しかったと聞いたので、次回立海にくる際に寄ろうと思っていたらしい。

夕飯時に何気なくその話をしたら、興味を持った母の『次、湘南行くなら何かフレーバーティ買ってきて』。

たまたま部活オフになった本日火曜日に、まぁちょうどいいからとここまでやってきたのだ。
ちゃちゃっと買って、そのまま立海の練習見に行こうかな〜なんて思ってたら、以前見かけたはずなのに迷いに迷って、着いた頃には立海練習も終わっている時間。
丸井へ連絡もしていないし、もう帰っているかもしれないから、紅茶だけ買って帰ろうとしたら、二人が後ろにいたという。


「芥川。ちょっと時間ある?」
「え?」
「お茶していかない?ここ、紅茶も美味しいけどケーキも評判だから」
「そういやクラスのこが、チーズケーキおいCって言ってた!」
「うん。チーズケーキもだけど、ザッハトルテも人気だよ。ブン太が褒めてたくらいだし」
「丸井くんも?えー、じゃオレ、それにする!」
「…精市、時間がー」
「蓮二もきなよ。準備は…そうだな、柳生にメールしておく」



『所用で遅れるから、先に家に行ってて。
準備よろしく。セットの不明点は母に聞いてくれ』


(音符でもつけようかな?
『準備よろしく♪』
やっぱりハートにしようか)


とりあえずは柳生へメールを送り、角のテーブル席でメニューを見ながら目を輝かせている芥川のもとへ向かった。
そのまま柳も続き、幸村の隣に腰かける。
これからバーベキューが待っているのだが………、『可愛いから』とチーズケーキとダージリンティに決めた幸村、若干疑問を感じつつ、柳はオリジナルブレンドティを注文。
ちなみに芥川は、ザッハトルテとアプリコットティで。


しばらくして運ばれてきた紅茶は香りもよく、味もしっかりしていて、茶葉を買っていきたくなるのも納得。
芥川だけでなく、柳も購入を決めたようだ。
そしてケーキはというと、チョコレートでコーティングされたザッハトルテは見た目も可愛らしく、味も甘さ控えめなビターテイストで、チョコの味が濃く、こちらも大満足。

それぞれが一息ついたところで、――――幸村部長の好奇心が始まった。



「さて、芥川」
「もぐもぐ……、う?」
「ちょっと聞きたいんだけど」
「なに〜?」


「丸井のどこがいいんだい?」


―ブッ!



先ほどまでテニスだ学校だ勉強だと、会話をかわしていた二人のそばで静かに紅茶をすすっていた柳だったが、思わぬ方面に話が飛んだため、吹きかけてしまった。
(かろうじて吹いてはいない)



「へ?丸井くんの、いいところ?」
「丸井のどこが好きなのか、純粋な疑問」
「ええと…やっぱ、妙技?
オレ、綱渡りも鉄柱あても、まじまじすっげぇと思う!」
「うん、テニスはいいや」
「う?」
「芥川が丸井のプレーの大ファンなのは皆わかってるから、それ以外で」

「精市…」


丸井のいいところ、好きなところ。
自分を惹きつけてやまないカッコいいプレーの数々、真似できない妙技、フィニッシュを確実に決めるところ。
そのテニスと同じくらい好きなのは、やっぱりー
初めて食べたショートケーキも美味しかったし、ベイクドチーズケーキ、モンブラン、レアチーズケーキ、フルーツタルト、杏仁豆腐、マンゴープリン、、、


「あ、ケーキ以外でね」
「えぇ〜?」
「海原祭菓子部門3連覇中の丸井のデザートがすごいのは周知のことだから」
「う〜ん、テニスとケーキ以外……」



まさかそれだけか?!



柳の脳裏に、芥川について話し出すと止まらない丸井の満足げな顔が浮かんだ。
やれ、笑顔が可愛い、しぐさが可愛い、寝ていても可愛い、喋っても可愛い、ふて腐れても可愛い、ていうか基本的に怒らない、軽く天然なところも可愛い、エトセトラ…



「じゃあ質問するから、それに答えよっか」
「は〜い」
「告白はどちらから?」
「こくはく?んーっと、ええっと、そうだな〜」


(精市…)



頭の片隅に、『ジロくんと付き合うことになった』と照れくさそうに笑う、丸井の映像が浮かんできた。
あれはいつのことだったか。
仲の良い二人だとは思ってはいたけれど、徐々にその距離を縮めていき、…芥川が丸井の大ファンで大好きなのは誰の目からも明らかだったが、まさかそっち方向に進むとは当初は思いもよらなかった。
友人として大ファンだ、大好きだ、という芥川のベクトルを、愛情に変えさせたのは一重に丸井の努力の賜物。
元々は丸井が早い段階で自覚し、悩んでいた頃を知っている。
背中を押した中の一人に、確かに自分もいるわけだが……
ただ、最後の方ではどこからどうみても両想いだった二人なので、『告白』がどちらからと聞かれても、当人はあまり思い出せないのだろう
(それとも、同時か?)



「じゃ、次は……二人は、どこまで行ってるのかな?」

「ブッ…!」

「わっ、柳、どしたの?!」


タオル、タオル!

咄嗟に自分のおしぼりで、柳の手元とテーブルをふき、心配げに顔を覗き込んでくる芥川に……


あ、可愛いな、これは、うん。



「すまない」
「おしぼり貰う?店員さん呼ぼっか?」
「いや、芥川。大丈夫だ」
「……蓮二」
「すまない。続けてくれ」



春休みは自転車で名古屋まで行ったけど、夏休みは北にしようかと話している。
もちろん全国大会終わってからだけど、北海道自転車の旅でもいいかな、と計画中!
北海道まで電車で行くか、フェリーにするか、ここから自転車でトライするかは検討中だけどー


なんてベタなボケをかましてくるモンだから…


「さすがに東京から北海道まで自転車はキツいんじゃないかな?
夏休み丸々ならともかく、前半は大会だし」
「やっぱりそうだよな〜。丸井くん、北海道でジンギスカンって決めてるんだよねぇ」
「北海道の話はまた今度丸井とじっくりしなよ」
「うん!」
「で、アッチのほうはどうなのかな?」
「あっち?」
「ふふふ。ブン太、うまいかい?」


(ブブッ!!…ごほ、ごほっ)


先ほどよりも強めに吹いた――が、おしぼりで口をおおい、噴出をふせいだ。
ここでまた芥川の注意を引いてしまったら、隣の御仁に何を言われるかわかったもんじゃない。



「美味い?ケー」
「ケーキじゃなくてね」
「う?」
「丸井の家に泊まることもあるだろう?」
「休みのときはね」
「ブン太の部屋、そんなに広くないけどベッドは大きめだから、二人で寝れるよね」
「うん。セミダブル?くらいだから、二人でもだいじょーぶ。仁王くんとジャッカルがきたときも、ベッドと布団でよゆーだったよ」



選抜大会が終わった3月春休み。
立海の完全部活オフの日に二人で遊んでいたら、コーヒー屋で一人でいる仁王を見かけた。


『一人なのかな〜』
『何してんだろうなーあいつ』
『デートじゃないの?』
『仁王、いま彼女いねぇしな〜』
『突撃する?』
『いや、俺らデート中だろい』
『あ、こっち気づいたよ』

窓際の席で、携帯片手にコーヒーすする姿を外からじっと見つめる視線に気づいたようだ。
去ろうとした丸井の隣で手をひらひら振る芥川に、軽やかに振りかえしてきた結果、合流。
その後、昼飯行くぞ!と押しかけた『らーめん桑原』でご飯を食べて、家にいたジャッカルも誘って公営テニスコートで汗を流し、そのまま全員で丸井家へ。


「そう。楽しそうだね」
「うん、すっげぇ楽しかった!仁王と組んで、丸井くんとジャッカルのペアに挑戦したんだ」
「(…って、そんな話を聞いてるんじゃないんだよ?)

二人でいるときはどうなの?」

「ふたり?」


「ベッドで二人きりで、一緒に過ごすだろう?」

「……あ」



丸井、うまい?



にこっと微笑む幸村の視線の先には、やっと気づいたのか………頬をピンク色に染めて、あたふたしだす芥川が。


「ふふふ。で、どう?」 
「あ…う…」
「ブン太、ちゃんとリードしてくれるのかな?」
「あぁぁ……ええと、うぅぅ〜」
「まさか無理強いされてないだろうね」
「そ、そんなことないC…」



(精市…いいかげんに)



彼らが一線を越えた日のことを、何となく覚えている。
直接聞いたわけではないし、ましてや調べたわけでもない。
なんとなく、雰囲気が違ったのだ。

二人でいることが、何というか『自然』になった。
丸井のさりげない気遣いや、世話をやかれることを今まで以上に自然に受け入れる芥川。
つまりはすんなり落ち着く関係になっていたのだ。
まぁ、決定打はというと、辛そうな芥川の腰をゆっくりと撫でていた丸井の姿が要因ではあるが。



「…で、泣いちゃったんだ?」
「だって……オレ、そういうの全然わかんねぇし」
「ブン太が急すぎたのかもね」
「丸井くんは悪くねぇもん……」
「うん、そうだね。芥川はそういうの、まったく経験無かった?」
「…誰かと付き合ったことなかったし」



……。


どんな手腕をつかったのか、いつのまに初体験の話になっている。
しかも、シドロモドロだったはずの芥川から、素直な言葉を引き出していて。


(精市…それを聞いてどうする)


100%ただの興味・好奇心だろうことは察せられるけれど。
ここで根掘り葉掘り聞いた後、キッチンでデザート作りに勤しんでいる彼をからかうのではないだろうか。
かといってマシンガンのように、次々に言葉を紡ぎ、会話をリードしていく隣の御仁を止めることはできそうにない。
いつになく声に張りがあり、いたずらっ子のように目をイキイキとさせ、楽しそうにしているので。



「それまで友達だった丸井を意識したのが、その時だったんだね」
「オレ、びっくりして」
「抵抗は無かった?」
「よくわかんなかったけど、嫌じゃなくて。それで、そのまま…」
「なるほど、受け入れた、と」
「……うん」


告白→初体験→お付き合い、が一晩でなされた事実を懇々と確認する幸村に、隣の柳はこめかみを押さえ、誰かこの暴君を止めてくれと祈る。


というか丸井。
こんな、何もわかってなさそうな子供に、よく手を出せたものだ。(同い年ですが)

一瞬眉をひそめた柳だったが、思いは幸村も同じだったようで。



「ブン太…こんな子に、無体な真似を」
「う?むたい?」
「ううん、何でもないよ。ほら、チーズケーキも食べるかい?」
「まじまじ、いいの?」
「どうぞ」
「やっりぃ!ありがとー」


注文しておきながら手付かずのチーズケーキを芥川へすすめる。
なるほど、『可愛いから』か。
(最初からこの光景を思い浮かべ、注文したらしい)



「やっぱり可愛いな。
ブン太にはもったいないよね?」
「……」
「蓮二。聞いていただろう?」
「…精市。そろそろ行ったほうが」
「ふふふ。そうだね」



今頃他の6人も、幸村宅に到着しあれやこれやと準備しているだろう。
店を出て自宅に着くころには全てが整っているはずだ。
柳にミーティングの映像セットを任せて、ちゃちゃっと終わらせてバーベキューに進めなければ。
ついでに合間みて丸井をつっつくとするか。





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