3/6小春Happy BirthDay!2014



3.大浴場前のヘンタイ


合宿所の共同風呂を出てすぐの共有スペースにはお茶やコーヒーを淹れられるセルフコーナーが完備されており、牛乳スタンドもあるので脱衣所で飲み損ねた者や、着替え終えて外に出てから休憩したいという選手たちはここで風呂上りの小休止をとることがある。

「お湯の中って気持ちいいよねぇ〜つい眠くなっちゃうC〜」
「だからって寝ないでよ。目閉じてぷかぷか浮いてるからホントびっくりした」
「いっつも岳人か宍戸が一緒だから、ついやっちゃうんだよなぁ」
「あのまま僕が来なかったらどうなってたんだか」

夕食後、たまたま早めに風呂に入りにきてみれば脱衣所のカゴは一つだけ使用中で、本日の風呂が二番乗りなことに運のよさを感じつつ、後続の選手たちがきて芋洗いになる前に、とっとと入ってしまおうとドアを開けて洗い場へ一直線。素早く洗い終えて、後はゆっくりお湯につかり疲れを癒すのみ、どうせなら外の露天風呂で秋風を浴びながら……なんて思い、外へ出てみれば先客がいた。
そういえば脱衣所のカゴに『一番乗り』の痕跡があったので、先客は露天風呂にいたのかと覗いてみれば、ぷかぷかと仰向けで大の字に浮かんでいる姿。一瞬驚いたが、そのままクルっと体が動いてうつぶせになっても『一番乗り』が反応もせずぷかぷか浮くどざえもん状態だったため、ギョッとしてかけより体を起こしてやれば『ん……あれぇ、不二ぃ?』などとノーテンキな声。
風呂場で寝そうになり向日や宍戸に頭を叩かれている場面は何度か目にしたが、まさか本当に湯の中で船をこいでいたとは。いくら氷帝の寝ぼすけ、寝太郎、寝ぼけヒツジ……さまざまな形容で呼ばれていたとて、ありえないだろう?

「だいたい、普段は氷帝の誰かと一緒なのに、今日はどうしたの?」
「んー…なんだろ、そういや岳人も宍戸も、皆来てなかったねぇ」
「ミーティングは終わったんだろう?」
「みーてぃんぐ?」
「?氷帝生で夕飯後にミーティングやるって、跡部が言ってたでしょ」
「………あ」

なるほどだから他の氷帝生がいないのか。
といっても、芥川が寝ぼけたりその辺で寝てしまうのは想定内なので、いつもなら向日なり忍足なり彼の首根っこを掴んでミーティング場所に連れて行っているはずなのだが、何ゆえ本日はそうではないのか。いや、もしかして食後によく寝転がっている部屋かレクリエーションルームではなく、すぐに風呂場に来てしまったというので他の氷帝生は気づいていないのかもしれない。

「ま、いっか〜」
「跡部が怒ってそうだけど」
「んー、跡部はいーんだけど、岳人と宍戸がうるさい。特に岳人」
「あぁ、同室だもんね」
「そーそー。部屋戻ってからもずーっと怒られる」
「けど寝ちゃうんでしょ?」

寝ているつもりは無いけど、向日の説教は右から左へ流れるのみで頭に入ってこないのだとふんわり笑う芥川に『それを寝ているというんだよ』と同じく微笑む不二の言葉は事実。
(そう、204号室で向日にぷんぷん怒られようが、しれっと聞き流し……というかすぐさま寝てしまうのだ)


不二と芥川。
夏の大会団体戦、関東大会で戦ったシングルス同士。
圧倒的な差で勝者と敗者になった二人だけれど、その後の関係は悪いものではなく、大会や街で会えば声をかけて談笑しあう仲ではある。それは、敗者となった芥川が目を輝かせて『不二ー!!』と近寄ってきては楽しそうに笑うからだろう。芥川慈郎の中にある特別枠、それまで跡部と丸井しかいなかった中に、夏の大会を切欠に不二が入ったのか。

「部屋戻ったら向日が待ち構えているんじゃない?」
「えー、このあと丸井くんと卓球の約束してるC〜。部屋戻んないで、そのままレクリエーションルーム行こ〜っと」

その前に跡部に捕まりそうだけどとの不二の予想は当たっているのだろう。
すでに何度も経験済みのようで『跡部ってシツコイんだ』なんて言いながらも浮かべる笑みは、どこか嬉しそうだ。


そんな和気藹々な二人を遠くから覗き見る、関西のヘンタイが一人。


「…くそっ…何で不二やねん……あぁ、もう、せっかく風呂であったまったのに、湯冷めするやんか……あんな薄着で」
「なぁ、謙也くん…そない気になるなら、あの二人のところ行ってくればええやんか」
「だ、誰が気になんねん。そんなんちゃうし」
「なにが違うん。もうわかったから」
「?なん」
「気になって気になってしゃあないねやろ?」
「なっ…」
「素直の認めて、話しかければええやん」
「何をワケわからんことを……ユウジんとこ行けや、小春」
「一氏なんてどうでもええねん」
「泣くであいつ」

『そんなんちゃう』と言い切るのなら、とっとと風呂に入って来い。
そう言いたい小春だけど、不二と芥川の二人から目がそらせないらしい謙也には、何をいってもこの場にい続けるであろうことがここ数日の彼の様子でまるわかり。
謙也を置いてとっとと風呂に入ってきてしまおうか、それとも一応はチームメートとして、何とかしてあげるべきなのか。

後々聞いてみれば風呂場に入っていく芥川を見かけて、清掃スタッフが出たばかりなので彼が一番乗りであることを知っていたのだが、続いて入るべきかどうかうんうん迷っていたらしい。
『入ればええやん…』
『は、入ればって……せやけど、ま、マンツーマンて!』
『なにがマンツーマンやの…』
どうしようか悩んでいたら不二が入っていったため、今度は葛藤しはじめ、そうこうしているうちに二人が中から出てきたんだとか。

呆れる小春をよそに、少しばかり頬を染めて話し出す謙也は正直情けないというか、気持ち悪いというか、後輩の財前に言わせれば『ヘタレも度が過ぎますわ』だろう。
ひたすらきょどっている姿は『キモイ』以外の表現があるだろうか?
あの時立ち止まらず、そのまま風呂場に入っていったらの『if話』をしだしたため、どうしたもんかと困った小春くんでした。





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