「ねぇ、芥川」 「あぁんっ…」 クスクス… 柔らかく穏やかな声を耳元で囁かれ、芥川の背中にゾクっと快感が走る。 彼の膝に乗り、後ろから抱きしめられたまま両腕をまわされ、ツンと尖った両の突起をつまみ、ゆるゆると刺激を与えられる。 「あっ…あっ…ッ」 「ほら、こりこりしてる。気持ちいいんだね」 「ああ…ん、う……んっ」 「毎日弄ってあげようかな。一回り大きくなるかもね」 「やぁ…んっ…」 耳をペロっと舐めて、そのまま舌を差し入れられると華奢だがしなやかな体がピンと跳ねる。 (ジロくん、耳弱いんだよ。…っ…もうやだ) かみさま、何かいけないことをしたのなら謝ります。ごめんなさい。 もう許してください。 これ以上、こんなシーン、見たくないんです。 今度の『ジロくん』は、痛みではなく純粋な快感に顔を歪めている―のがまだ救いか? …と思えるほど、丸井の精神も安定しているわけではなかった。 ―タチの悪いAVみたいだ。もう3本目か。いい加減にしてくれ。 本数を重ねるごとに、だるい体がさらにヘトヘトになっていく気がする。 次の男は、ソファで後ろから抱きしめひたすらイチャイチャしているだけなのか。 芥川の後孔を貫き、繋がっているわけではない。 ただ、桃色に染まる可愛らしい乳首を攻めているだけか? いや、『ただ』や『だけ』なんて言っている場合か。 なんせ大事な大事な、愛しい恋人だ。 だが、1本目と2本目を思えば、まだマシだと言わざるを得ないのか。 (今度は不二か……) 2本目よりは交流のある人物だ。 なんせ中等部の頃、関東大会・全国大会の決勝を争った相手であり、直接対戦はしていないけれど彼の実力はまざまざ見せ付けられた。 どちらも決勝でも、立海の選手に勝利した『青学の天才』。 都大会決勝では愛しい恋人と対戦して、圧倒的な力で負かし、芥川の『テニスがちょー強い、対戦が楽しい人』リストに入ったのだから。 いくら芥川のリストのナンバー1が自分だとはいえ、青学の天才は徐々に順位をあげていっていることも知っている。 なんせ氷帝は度々青学と練習試合を組んだり、ともに合同合宿を行い、何かにつけて一緒に遠征を行ったりと非常に良好な関係を築いている。 同じ都内で比較的位置も近く、顧問同士も旧知の仲で組みやすいからだとわかってはいても、『大好きな不二くん』と軽井沢で合同合宿なんて、聞いていて楽しいわけがなかった。 「ねぇ、芥川。どうして欲しい?」 「んっ…う…ッ…あん」 「ちゃんと言ってくれないと、わからないな」 「やっ…したも、さわ…っ…て」 勃ちあがっている芥川の中心をつついて軽く刺激を与えると、嬉しそうに先端からはとろとろと零れ、濡れてくる。 だが、それ以上何かをすることもなく、再び胸元の突起に手を這わせてゆるゆると撫でると、もどかしいのか腰を突き出して、直接的な感触が欲しいとねだりだした。 (まじかよ、ジロくん…) 確かに、極限までじらしてじらして、ひたすら愛撫を加えると、たまらなくなった芥川がねだってくることはある。 丸井としてはそれが狙いで、普段は照れて直接欲しがってくれない彼に、言葉にして欲しくて弄り倒すのも楽しみの一つだ。 あんな風に腰を突き出して、さわって、と淫らにお願いしてくる時は、芥川自身も何を口走っているのかワケがわからなくなっている証拠で、耳元で囁く言葉をそのまま口にしてくれることがある。 (これは夢、これはゆめ……あれは俺、不二じゃねぇ。俺だ) 芥川のおねだりの時の壮絶に色っぽい表情は、自分だけだ知る秘密のはずだ。 あんな顔させられるのも、他の誰でもない、恋人である自分しかいない。 あれは、夢が見せている幻で、実際は鳳でも千石でも不二でもなく、相手は全て丸井ブン太なはずだ。 …いや、千石だけは違う、か? あんな酷いことを自分がするはずがない。 それとも、心の奥底に、僅かでもあのようなことを望む気持ちがあるとでもいうのだろうか。 「ふふっ…自分でさわってごらん?」 「いじ…わるっ…んん」 ―やっぱり自分じゃないのかもしれない。 淫らにお願いされたら、すぐさま希望通りに触って扱いていじくり倒す。 あの『不二』のように、にこやかに微笑みながら自慰を促すなんて、させた記憶がない。 「そう。手そえて。一人で出来るよね」 「ひゃっ…あっ、う…っ」 「そんなんじゃダメだよ。もっと、ほら、こうやって」 「やぁ…ッ」 弱々しく自身を握り、ゆっくりとさすりだす芥川の手の上から不二もそっとそえる。 首をふって恥ずかしがり、頬を染めて後ろを振り返る芥川の視線が、面白そうに目を見開いた不二の双眸とぶつかる。 半開きで喘ぐ唇に、胸元を可愛がっていた左の人差し指を入れて、口の中をぐるっとかき混ぜ舌を絡ませる。 意図を察したのか、芥川も大人しく不二の指に一生懸命舌を這わせ、夢中になって舐める……音が、やけに響いた。 (止めて、ジロくん……まじで、もう…っ) 愛しい恋人が苦痛にゆがむ顔は見たくない。 でも、同じくらい、快感に身を任せて一心不乱に奉仕する姿なんて、見たいわけがない。 潤んだ瞳は情欲の色をたたえ、じっと不二だけを見つめている。 あんな目で見つめられるのは、自分以外ありえないのに。 『心底惚れてます』と言わんばかりに、とろっとろに溶けきった瞳は、今まで見たこともないくらい色っぽい。 自分といるときも、あんな風に見てくれていただろうか。 次々と色んな表情を見せ付けられて、徐々に不安が増していく。 酷いことをされているときは、相手の千石に怒りだけがこみ上げ、凶暴な衝動に襲われた。 鳳に感じた罪悪感とは異なり、…千石も千石ではないとわかってはいるけれど、あんな悲鳴をあげさせるなんて、許せるわけがなかった。 だが、今度の不二は。 自分以外の腕の中で身も心も相手に任せて、触られて焦らされながらも全身で喜んでいる姿、なんて。 信頼しきった様子で、蕩けた瞳が見つめる先が自分以外の男―現実の世界で、彼がが『会うとテンションのあがる人』と常々述べる男。 もし、現実の不二が彼に興味を持ってしまったら… (そんなワケねぇ…ありえねぇ。ジロくんは、俺だけを見てー) ―いるはず、と断言できるだろうか? 『まるいくんが、一番好き!』 可愛らしく、満面の笑顔で言ってくれるんだ。 彼が自分以外を見るなんて、無いに決まってる。 いや、待て。 『一番』? 二番、三番、四番………跡部、不二、あと誰だ? (……考えるの、よそう。起きろ、俺。起きろ…いい加減に) これ以上、彼の恍惚な顔を見るのが辛いんだ。 >>次ページ >>目次 |