爽やかな鳳の笑顔だけがやけに目に焼き付いていたが、やがて視界が真っ暗になって二人の姿が遠ざかっていった。 (目が、覚めるのかな…) こんな寝覚めの悪い夢なんて…。 だが、願いに反して覚醒は訪れない。 それどころか、黒一面だった視界の奥で、うっすらと光が差し込んできた。 まだ夢の続きなのだろうか? それなら、こんな嫌な気持ちになるようなものじゃなくて、ただ幸せな、温かい夢がみたい。 でも、そんな希望が通らないのもやはり夢ゆえか。 (なんだよっ…また) 後ろから貫かれて、あられも無い声をあげているのは―――やはり愛しい恋人だ。 とろんとした目でどこか遠くをみつめ、半開きの口から扇情的な舌がちらちら覗く。 そんな唇からあがる声はひたすた甘く、後ろからの快感に身もだえ、気持ちよさそうに吐息を零す。 「あっ、あっ、あぁっ……んっ」 パン、パンと打ち付ける音と、喘ぎ声だけがこだまする。 芥川の腰をつかみ、ひたすら攻めている後ろの男は特に声をかけることもなく、楽しそうに目を細め、たまに大きくグラインドさせ中を抉るような動きに変え、一層高い声をあげさせた。 「ひぃ、あぁぁーっ」 与えられる快感に背中をのけぞらせ、耐え切れなくなったのか中心からちろちろと垂れていたものが、勢いよく飛び出した。 途端にクタっと体の力が抜けて、両腕を前にだらんと投げて肩で息をする芥川……だが、後ろの男はお構いなしに腰の動きを緩めない。 「先にいくなんて、ズルいなぁ。置いていかないでよ」 「アァ…ン」 「あ、寝ないでよ?もうちょっと我慢できるよね、芥川くん」 「やんっ…も、だめ…っ」 「うっそだぁ。そこは『もっと、欲しい』でしょ?」 「千石く…っ、んんっ」 優しげな口調とはうらはらに、右手を柔らかな金糸に絡ませ、ぐっと掴んで後ろを向かせる。 後ろから貫かれながら、急に頭を掴まれ持ち上げられたことに苦悶の表情を浮かべるも、文句を言う前に唇を塞がれ口内を蹂躙された。 「んっ…」 ぴちゃぴちゃとわざと淫らな音をたてながら、逃げようとする可愛らしい舌を絡めとリ、吸い上げる。 苦しげに眉を寄せ振り払おうとするも、己の体を支えている手を片方あげたことでバランスを崩し、崩れ落ちそうになる瞬間、掴まれていた頭にさらなる力を込められる。 咄嗟のことに思わず口内を自由に動き回っていた彼の舌に歯を立ててしまい、パッと唇を離される。 「あっ」 「痛ててて…、酷いなぁ、芥川くん」 「ご、ごめんなさ…」 「ちょ〜っと、お仕置きだね」 彼の機嫌を損ねると、どんな目に合わされるかわからない。 伺うように千石を見つめている芥川の目の奥底に、隠しきれない恐怖が浮かんでいる。 腰を掴んでいた左手を離し、そのまま芥川の胸へと這わせる。 金糸の髪を鷲づかみしていた右手も、尖らせている彼の突起へ持っていき、両方の先端を掴むと思いっきり力を入れて捻った。 「あっ、あぁぁああー」 快感を通り越したあまりの痛みに、生理的な涙が溢れてくる。 『罰』だと言わんばかりに乳首をきつく引っ張られ、パンっと放されるとさらなる強烈な痛みに襲われる。 「ひぃっ、やぁっ、痛っ、あぁッ」 (止めろよ……っ…もう、止めてくれ!ジロくっ…) 明らかに夢の中のことだと…それだけはわかっているが、夢は言うことを聞いてくれない。 恋人のあられも無い姿―しかも、自分以外の男との交わりなんて、見たいわけがない。 さらに、こんなに苦しげに涙を流す姿なんて。 ただただ優しく抱いてやりたいし、少しの意地悪をすることもあれば、困った顔もたまらなく可愛いので攻めたくなる気持ちもある。 でも、こんな風に傷つけて泣かせたいなんて、思ったことはない。 芥川がこんなに怯えて、震えて、苦しみ悶えているところなんて、見たことがない。 だからといってこんな顔をさせたいなんて、思うわけも無い。 そういう趣味思考の人はいるだろうけど、丸井の中でそんな要素は微塵も無かった。 遊び感覚として多少その気はあり、興味無い、と断言はできないが、本気で痛みを与えて快感を得るなんて、やりたいわけが無い。 与える快感に素直に身を任せてあがる、あの甘い声を聞きたいんだ。 苦しげに顔を歪めて、許しを乞いながら涙を流す彼を見ながら、楽しげにわらってバックから突くなんて。 (信じらんねぇ……) 千石とそんなに交流があるわけではない。 U17選抜で一緒だった鳳はともに行動することも多かったけれど、今目の前で恋人に酷いことをしている千石は、顔見知り程度だ。 会えば挨拶をかわし、打ち合うこともあるけれど、それでも『友達』というには遠く、言葉でくくるとすれば『他校生』がぴったりくるくらい。 なぜ、相手が千石なのか。 芥川が親しいという話も聞いたことがない。 こういうのって…親しい―といえなくても、多少は知っている人が出てきたりするもんじゃないのか? なんで、顔見知り程度のヤツに、大事な恋人が犯されるんだ? (頼むよ…もう、目覚めさせてくれよっ) 今まで聞いたこともない芥川の悲鳴が、耳にこびりついて離れない。 夢だとわかっていながらもたまらなく不安になり、これ以上彼の姿を見れなかった。 涙でぐしゃぐしゃに濡れた顔で、苦しげに眉を寄せて喘ぎながら、千石によって行われる行為に悲鳴をあげる。 『ジロくんのありとあらゆる顔が見たい』 照れた顔、恥ずかしがる顔、怒った顔、寝ている顔、、、、ころころ表情をかえて色んな顔を見せてくれる可愛い恋人。 お前が全てを見せるのは、俺の前だけだ。 なんて、他愛も無い会話の中で交わしたセリフが脳裏をよぎる。 こんな顔、見たくはなかった。 >>次ページ >>目次 |