まるいくんとジロ君のとある1日2



『ん?遠征メンバー?そりゃ、この前ミーティングで跡部が言ってただろ』
『オレそれ知らねぇしぃ』
『寝てたんだろ、どうせまた…』
『違うしぃー。ミーティングの日、オレ委員会でいなかったー。ししどぉ〜』
『テニス部連絡網でもまわってただろ(校内ブログ)。読んでねーのかよ』
『うぅぅぅうう』
『お前はしっかりアサインされてたぜ?』
『…やだよぅ』
『1年からはお前と跡部と忍足だけなんだぜ?』
『譲る〜』
『アホか!』
『だってぇぇぇぇぇええ』
『俺に言ってもしょーがねーだろうが。跡部に言え、跡部に!』
『探してるけど、さっきからいねぇし』
『そういやいねーな』
『うぅぅぅぅ』
『おいジロー!次、お前の番だぞ、ラリー』
『あ、ガックーン!!』
『うゎ!な、なんだ?へばりつくな!!お、おい、亮?!』
『バトンタッチ。走りこみいってくるからジローよろしくな』
『あ、ちょっと待っー』
『がっくーん、アトベどこー!?』
『オレが知るかよ!?ってか、お前なんでそんなに遠征嫌なんだよ』


『今日はずーっと前から約束してた日なのにぃいいい
それに、土曜は午前練習で日曜オフって決まってたのにぃぃ。
アトベに何回も確認して、この土日はぜーったいに予定あるって言ってたのにぃぃぃぃぃ
ミーティング参加してたら遠征メンバー外れるように言えたのにぃ!!!佐藤センパイも河野センパイもレギュラーだけど外れてるしー!
さっき聞いたら、ミーティングで『予定があるヤツは外れていい』ってアトベが言ったから、言ってみたら遠征不参加OKになったって言ってたしぃ!!
なんで、オレはー?!
予定あるってアトベ知ってるのに!!
ていうかミーティング、昼からだったはずなのに、なんで急にずれてオレが委員会行ってるときにやるのか、、、聞いてないしー!!』


『(言ってねぇんだろうよ……てか、お前が委員会でいないから、その時間にミーティングをずらしたんだろーよ。
どうせこいつ、連絡網見ないし)

跡部に予定があるって言ってたんだろ?』

『そうだよ!!1ヶ月も前から確認してたのに!』

『なんて言ってたんだよ』

『今月末の土日は、久しぶりに丸井くんと遊んで、日曜はどっちも練習ないから丸井くんちにいって、ゲームして、ごはんたべて、泊まってー』

『……。
(それだよ…バカ…。ただ「予定がある」ってだけにしときゃいいのに、丸井丸井連呼するからだろーが)』

『アトベのバカァ……ヒドィしー』

『…つかまえて、言うだけ言ってみろよ』

『どこにもいないぃぃいい』

『……。 (逃げてんだろ。…ジロー前にしたら断れねーんだろうし、とっとと移動のバスに乗せたいんだろ)
たぶん、侑士と一緒にいるだろうからー』

『忍足どこ!?』

『……しらねぇ』

『わぁぁぁん』

『電話かけてみっから、ちょっと落ち着け』

『うぅぅぅ……オレの携帯、充電切れちゃったからアトベ捕まえられねぇし、まるいくんにも連絡できないぃいい』



『あ、侑士?いまどこ?あー、そばに跡部いるだろ??ちょっと気づかれないようにして。
ん?あ、そうそう。だいぶご立腹。
え?いや、そりゃしょーがねぇじゃん。うまくなだめろよ。
ジローの約束のほうが先だし、跡部も知ってたことだろ?
侑士は何も知らなかったってことで、バッタリ装って突撃させるから。んで、いまどこ?
え、にらんでる??どーにかしろよ。心閉ざせ!
じゃメールして。んで、しばらくそこ動かないようになんとかつないで。
よろしくな』


『……がっくん……いた??』

『ん、ちょっと待ってみ。あ、きたきた』



ー忍足からのメールが告げる、彼らの居場所。




『ありがと岳人!行って来る!!』

『静かに近づけよ〜。気づかれたら逃げられるぞ』

『後ろから忍び足でタックルしてやるしぃ』

『いざとなったら侑士盾にして逃げるぞ、きっと。見つけたらダッシュだ!』

『ダッシュ!!ダッシュでホールド!!』

『そうそう。ダッシュでホールド』

『おっけぃ!じゃ、行ってきまぁぁぁ〜〜〜す!』

『おー』

『んで、そのまま帰るから、じゃまた来週ね〜!』

『おー (ジャージのままかよ…って、ラリー、お前の番!!まだ練習終わってねーし)』








けど、どうせ跡部はジローに甘い。
真正面からジローに泣き付かれれば、言うことを聞くしかないのだ。
逆に、捕まらなければ跡部の勝ち。先輩たちもいる手前、大人しくバスに乗るし、『部活・テニス』の前に丸井との逢瀬は諦めるに違いない。
(その後相当機嫌悪くなるだろうが)










跡部(と忍足)がいるであろうC棟のカフェテリアにいく前に、ダッシュで部室に戻り、すばやく着替えてリュックを背負う。
(カフェテリアでお茶しつつ遠征の最終確認をしているらしい。)


携帯は相変わらず死んでいるけど……電車乗る前にコンビニで充電器買って、電車内で充電すればおっけーっしょ!
完璧だしぃ〜!!



先ほどまでぶーぶー文句を言い、盛大に眉を寄せていた仏頂面から一転。
目をキラキラさせながら、目指すは諸悪の根源・跡部景吾!!


と、10050メートルを6秒チョイで駆け抜ける俊足をいかんなく発揮し、一目散にかけていく。



「ぜーってぇ帰ってやるしー!!」



だってもうすぐ立海の練習が終わっちゃう!











とまぁ、たどり着いたカフェテリアでは、端の席でティーカップを傾ける跡部の後姿。
そして、対面に座っている黒髪眼鏡とー




目があった。





(あ、ジロー)
『オッタリ、シー!!しゃべっちゃダメだめ!』


とっさに指をたてて、しー、しー、と忍足に念を送りつつ、忍び足でカフェテリア内に侵入。
そろり、そろり・・・



(う〜ん、ジローんこと黙ってると、後で跡部がめちゃ機嫌わるなるしなぁ。
せやけど、ジローが迫ってきてることバレたら、きっと逃げてー
ジロに八つ当たりされんの、……俺かい。
そしたら岳人にもキャンキャン言われて、宍戸にもあーだこーだ言われるんか……俺が。
なんで俺やねん)

前者を取ると跡部が面倒で、後者をとるとジロー、向日、宍戸が面倒。


(1対3なら、まだ跡部なだめるほうがマシっちゅー話やな)


なんせ、芥川・向日・宍戸の幼馴染コンビは、一度ノると手がつけられない。
子供じみた嫌がらせを延々と続けるのだ。。。特にチビっこ二人。
宍戸はかろうじて見守っていることが多いが、たまに二人に手を貸す。



忍足の脳裏に、ふとよぎる、、、思い出したくない過去。
…といっても、ほんの3週間ほど前のことなのだが。

以前同じように跡部が邪魔したことにより怒ったジローの八つ当たりが、跡部ではなく自分に向いたこと。

・大事な眼鏡(伊達だが)のレンズが黒いマジックで塗りつぶされていた件 
(こんなことすんのジローしかおらん…)

・歴史の教科書の人物すべてに落書きがされていた。しかも油性マジック 
(岳人…なにしてくれんねん)

・購買で買った限定メロンパンを食べようとしたら、颯爽と現れたヤツにバクっと半分以上食われた
(ジローかと思ったら、何で宍戸やねん)

・自分の番だった部の活動日誌記入時、勝手にログインIDを使われ
『今日の練習ははかどったわー。やっぱりギャラリーに可愛い女の子がいると、やりがいもでるちゅーもんやー。
ただ、ギャラリーにはお姉さんたちより、可愛い11歳くらいの子が見てくれるほうがはかどるでんねん。
俺は幼い子にしかきゅんとならへんねん。ロリコン上等やー』
とおかしな関西弁で書かれ、即座に消去しようとしたらこれまた勝手にパスワードを変えられ、しばらくログインできず跡部に頼み込んでなんとかしてもらったり
(ジローや岳人が考えつくこととは思えん……アホな関西弁はやりそうやけど、、、、、、、、滝か)



(ていうか、何で跡部にせんと、俺やねん)


理由は、ジローが落ち着くまで跡部が逃げまくるからなのだが…


・忍足がシャワールームいっているスキに、メガネをジローの目の着くところにおき、油性マジックをおくとか。
(ジローの発散のためらしい)

・自分の教科書は教室のロッカーへしまい、別クラスの忍足の教科書を拝借し自分の机の中に入れて、向日・ジローのイタズラの矛先を変えるとか。
(忍足のクラスメートは、『はい、跡部様!』と疑うこともなく、本人不在をいいことに忍足のロッカーから教科書を渡すらしい)

・矛先を忍足へ、忍足へ、と向けて『おいジロー。宍戸が気になっているらしい特製メロンパンの最後のひとつ……さっき忍足が持ってたぞ』と唆すとか。


(景ちゃん……堪忍してや)



やはり、、、ここは跡部に教えたほうが………いや、だめだ。

バレたらきっと、跡部は自分を盾にして逃げるだろう。
そうすると、ジローの怒りのボルテージが、すべて自分に向かってくる。

『オシタリ、なんで邪魔すんだよ……許せねぇ』


と、『え、きみ、ジローくんですか…?』ばりに冷たい空気と低い声で、罵るに違いない。



(俺は壁……空気。この場から動いたらアカン…目ぇあけたら負けや)


しばらく心を閉ざすことにした。



「?なんだ、急に黙って」
「(壁、空気)」
「おい、忍足」
「…(俺は今、完全なる『無』や…)」
「聞いてンのか、アーン?」
「……(聞こえん、何も聞こえん。聞いたらアカン)」
「おい、ったく。何なんだよ」



「アトベのほうが何なんだよだしーッッッ!!!」

「!!」



ーガシっ!!!



…と、けったいな音がした、とは、この場で空気になっていた忍足侑士(15歳)が後に語った弁。



後ろからがっちりホールドである。




「やーっとつかまえた!!」
「じ、ジロー」
「もう逃げらんないんだしー!」
「くっ…忍足!」
「オッタリは今空気だから無理ー!」

(ジロー…わかっとるやん)


「はなせ、ジロー!」
「離さないもんね」
「お前、まだ練習中なんじゃねぇのかよ」
「終わったしー!」
「終わってねーだろ。…つーか、何着替えてンだ。アーン?」
「アトベ、酷いぃぃぃいい!!」
「うっ…」



ホールドされたときに咄嗟に立ち上がったが、後ろの小柄なヤツは力をゆるめず解放してくれない。
パッと振り向くと、うるうるした瞳に上目使いで見つめられ…


「オレ、前から今日と明日はダメって言ってたのに…」
「くっ…」
「アトベにも、何回も言ってたし、そのたびに土曜は午前練で日曜は部活無しって確認してたのに」
「……」
「前の日曜練習のときも、聞いたの忘れてないよね?アトベ、『休みだ』って言ってたしぃぃ」
「………翌日の月曜に決まったんだ。しょうがねぇだろ」
「オレいなかった」
「委員会だからミーティング不参加は仕方ねぇ」
「でも、最初昼って言ってたのに、何で夕方に変えたの?オレが委員会で部活遅れるの知ってたはずだしー」


(それやな。ミーティング時間が変更になったの……昼にやったらジローが遠征辞退すんの目に見えてるから、『いない』夕方か。
ま、ジローは連絡網も見んからか…)


「…ミーティグルームの空き状況の都合だ。
それに、ミーティングに出てないヤツは連絡網で各自確認している。
お前がチェックを怠っただけの話だろ」

「!」

「滝もミーティングに出てねぇが、今日午後から遠征があると把握してる」

「!!」

「現にお前だけだろ。今日になって『聞いてない』とか言ってンのは」


「……うぅぅ」


「諦めて練習に戻れ。13時に出発だ」



後ろから跡部の腰に手をまわし、がっちりホールドしている腕が、ほろり解けそうになる。
そこをすかさず、ジローの腕から逃れようとした跡部だったが……


「!!」


ぎゅっとさらなる力を入れたジローが、逃がさない!と、体の位置を替えた。



…つまり、後ろからホールドしていた体制から、前に回ってー



(アカン、抱き合うとるやん)


正面から跡部を抱きしめ、あごをきゅっとあげて力強い目でじっと蒼い双眸を見つめた。



「アトベ、お願い…」
「だめだ」
「ねぇ、今日だけだから」
「…決まりは決まりだ」
「次はちゃんと出るから、ねぇ、お願い…っ」
「うっ…」




『跡部はお前が下から見上げンのに弱いから、バッチリ上目遣いで言えば間違いねーだろ』
『そうそう。目、うるうるさせてか細く「オネガイ」なんつったら、一発だぜ。悩殺だ、ジロー!』
『ふふ…宍戸も岳人も。よくわかってるねー。ねぇ、ジロー。それやるときは、ちゃんと跡部にくっついて、離れちゃだめだよ?ぎゅって抱きしめると効果的♪』



(宍戸は『上目遣い』って言ってたしぃ…岳人は、ええと…か細く、、、小さい声でいいの?
のうさつ、のうさつ…。で、タッキーの言うとおりにしないと。。ぎゅってする。離れちゃダメ、ダメだしぃ)



「ね、お願いだから…」
「…はなせ」
「きいてくれるまで、はなれない」
「く…っ」



(おー…ジロー、いつの間にあんな技覚えたんかー。滝かー…
ただでさえジローに弱いし、もうちょいやなぁ。
『お願いだしぃ』やなくて、『お願いだから』って、口調も使い分けるようになったんか。
あんな目ぇうるうるさせて、前から抱きしめるなんて反則やん。
跡部はー……やっぱりアカンなー、耐えられんか)



結果…




跡部は折れた。
やっぱり折れた。

向日、宍戸、滝が予想した通り、『ジローに甘い跡部』は折れた。
結局ジローには逆らえないのだ。

折れるくせに、毎回毎回邪魔をしたり、茶々いれたり、何かしらをやろうとして、結果折れる。


ある意味、氷帝名物でもあるNo1とNo2のコミュニケーションとでも言えばいいのか。

それで毎回被害をこうむる氷帝の天才には、……まぁ、災難としかいいようが無い。







「まっるいくーん、今いくよーっ!!」




駅までダッシュで向かう先。
目指すは東急東横線で一直線、向かうは横浜、その先・立海!












コンビニに寄る時間も惜しいのか、単に忘れているだけなのか。
死んでいる携帯は制服のポケットに入ったまま。
電車に飛び乗り安心したのか、座った席がポカポカ太陽の光があたり暖かいからか。

横浜でおりてバスで立海へ向かうはずが、車掌に起こされた先……看板に見えるは『元町・中華街』




(ちょっと過ぎちゃったなー)


ほんの数駅。再び電車に乗ろうか、どうしようか。



(…紅綿のアンマン、買ってこーかなぁ。まるいくん好きだし。
あ、エッグタルトも食べたいなー)



とりあえず手土産でも買って、立海に行くことに決めた。
なんせ、今夜は大好きな丸井くんが腕によりをかけて夕食を作ってくれるのだ。
デザートも仕込み済みだというし。


とりあえず中華街へと歩を進めることにしよう。








>>次ページ   >>目次







[ 2/97 ]




人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -