切原赤也の初恋物語4





「じょ、女テニの子かー」






「ふわふわしてて、いつも笑顔で…」

「ん?ふわふわ…?」



「一緒にテニスやると、すんげー喜んでくれて」

「…ん?」



「明るくて、可愛くて。たまにポッキーもくれるし」

「(ま…)」





「起きてると、元気いっぱいで」





「(お、おい。それって、まさか…)」




「嬉しそうに、丸井先輩のこと話してて」

「(やっぱり!)」




(おや?なんだか話が別の方向に…)
(なるほど『ブン太が一番知ってる2年』か)




「いっつも、丸井先輩のこと聞いてくるし」

「…」

「二言目には『まるいくん』で」

「……」

「丸井先輩のこと話すと、目ぇキラキラさせて、見つめてくるんスよ?」

「………」




(一人浮かんだ人物がいるんですが)
(たぶん正解じゃけぇ)
(…彼は、男性ですが?)
(そこは深く考えないほうがええけん)





「俺、最近ヤバいんス」

「…………は?」

「ただでさえ、ここ最近、悶々してんのに、目の前で『まるいくん』『まるいくん』言われて」

「……ちょっと待て。
相手はお前の気持ち、知ってンのかい」

「知ってるわけねーでしょうが。すんげぇ鈍いんスよ?あの人」

「……どうかな」

「俺、いつかあの人のこと押し倒しちゃうんじゃないかって…」

「はあ?」




(おや。切原くんはいままで恋人はいたことは無かったんじゃ?)
(正真正銘の童貞ナリ)
(きっぱり言いすぎですよ、仁王くん!)
(…ピヨ)



「あの人に会う度に、どきどきしちゃって…」

「…おい」

「前まではそれだけで嬉しかったんスけど、最近、なんか…」

「…なんか?」

「触れたくてしょーがなくて」

「(……まじか)」

「目の前で着替えられたりすっと、目ぇ逸らせなくて、、」

「とりあえず落ち着け」

「しかも、あの人、俺がこんなに悶々してんのにお構いなしに、隣で昼寝したりするんスよ?!」

「……しょーがねぇだろい。あいつは寝るのがアイデンティティみたいなモンだ」

「キスしても気づかないし!」

「起きるまで諦めろいーって、ちょっと待て、何だって?!」




(婦女子の寝込みを襲うとは。切原くん!男の風上にも置けなー)
(相手も男じゃがの)




「赤也、おまえ…寝てるアイツに何してんだよ」

「だって、しょーがないじゃないッスか!!気づいたらしてたんだ。
それに、ちゃんとする前に『起きてくんないと、ちゅーしちゃいますよ?』って聞いたし。
起きてくんないし、勇気出してちゅーしたけど、気づいてもくんないし。
俺と一緒にテニスしてたのに、丸井先輩と一緒にいる夢みてるし!
『まるいくん、すげぇ……妙技』なんて寝言を隣で聞いたときの俺の気持ち、わかンのかよ?!」


「……わ、わりぃな。
(つーかわかるわけねぇだろい)」




(……どうしましょうかねぇ)
(…ここはブン太に任せて、帰るとするか)
(そうですね。帰りに本屋にも寄りたいことですし)
(あ、俺も行こうかの。取り寄せてたアーキテクト集も取りにいかんとじゃけぇ)




そろっと席を立ち、各自支払って店を出ようとした二人だが、追いすがるような視線に捕まった。



「ちょ、仁王、比呂士!帰ンのか?じゃあ俺も帰る!!」

「丸井先輩、話はまだ終わってねぇ」

「終わったんだよ!」

「まだまだ言い足りねぇ。山ほどあるし!!」



二人を追って、出ようとする丸井のテニスバッグを後ろからガシっと掴み、行かせまいとする切原だが…



「お前のはたんなる愚痴だろーが!」

「愚痴でも何でも大いに結構!」




ぎゃーぎゃー!!




「…丸井君と切原君も本屋に行くんでしょうか?」

「……勘弁してくれ」


仁王、柳生が本屋へと歩を進める数メートル後ろでは、振り払おうとする丸井と、バッグを話さない切原の攻防が。。

切原としては今までに積もりに積もったモノが、一気に噴出してしまったのだろう。
目の前には、好きな人の想いを一身に受ける、にっくき仇!
とばかりに、わーきゃーと今までの出来事を述べ続けている。


…が、丸井も、最初は多少の戸惑いがあったものの、こうも糾弾されると、だんだんとイライラしてきてー



「あのなぁ!俺に言うんじゃねーよ。
これはもう中学の頃からだし…
アイツが俺を見に立海に来るのも、
フェンス越に応援してくんのも、
大会で俺の試合ん時だけ起きてて後は寝てンのも、
一緒にケーキ食いについてくんのも、
試験範囲もテスト期間も違うけど一緒に勉強したがんのも、
俺ん家きてチビどもと遊んで飯くって泊まってゲームすんのも、
楽天オープンのチケット跡部からゲットした!って一緒に行こうって誘ってくんのも、
メールや電話もしょっちゅうだったりすんのも…


全部、俺にはどーすることもできねぇ。

いいか?
ジロ君が俺を好きなのはどーしょもねぇことなんだよ!」






「どさくさにまぎれて、すごいこと言ってますね、丸井君」
「ブン太…意味わかってるのか微妙だが」
「ノロけなんでしょうか?」
「さぁ……赤也はともかく、ブン太もなんかの」
「長らく彼女いませんし」
「本命か。まさか」
「まさかですよねぇ。丸井君もですか?」
「赤也よりは可能性はありそうじゃけん」



咄嗟にというか、かぁーっとなっていたからか不明だが。。
丸井の脳裏に、いままで芥川慈郎と過ごした日々が走馬灯のように蘇ってきた。

アノ時の、『芥川・立海へ丸井を見に来る』で初めてちゃんと話をして、練習試合で久々の対戦をして。
連絡先を交換してからは、仲の良い友達として今までつきあっている。
お互い彼女がいたこともあったし、それについて話し込んだこともある。
切原と同じように、彼を恋愛対象として想っているかというと微妙なところでもあるが、しかし。



「丸井先輩……アンタ」

「うぉっ…って、俺、何言ってンだ」

「芥川さんと、そんなことしてたんスか…」

「あ、いや。えーっとだな」

「ケーキやら電話、メールはともかく…どーしょもねぇことだって?」

「あれ、俺、何つったんだっけ」




(物凄く上から発言でしたけどね)
(ここに芥川がいれば面白いんじゃがの〜。ムービーでも撮るか)
(携帯をしまいたまえ!)



「アンタ、芥川さんが自分のこと好きなのはどーしょもないって言ったんスよ!?
どーいうことッスか!!」

「あ、あはは…」

「さては丸井先輩……やっぱり」

「いやいや、落ち着け赤也。一から整理してみよう」

「あんなに彼女とっかえひっかえの遊び人だったくせに、あの清純で天使みたいな人にー」

「人聞き悪いこと言ってンなよ」

「本当のことじゃないッスか!芥川さんと約束してたらしい日もアンタ彼女と出かけて、当日バックレたりして。
おかげで偶然通りかかった俺と一緒に飯くって、テニスしてデートできたんですけどね!」

「あ〜あったなーンなことも。
つーかそれはジロ君が日にち勘違いしてただけだろい。
それに、結果的に遊べたんだから俺に感謝してもいーんじゃねぇのか?」


「あーそうですねー。その節はどうも」

「どういたしまして」

「…って、違う!」

「つーかよ、俺にわーきゃー言うよりも、本人に言えばいいだろうが!」

「それが言えれば苦労しないっつーか、すでに言ってるっつーか」

「言ったのかよ!?さっき『知るわけない』とか言ってただろ」

「俺的にはコクったつもりなんですけど、通じてなかったというか。
…なんて言ったと思います?あの人」




(意外ですねぇ、告白済みとは)
(ただ、この状態を見るに、伝わっていないか、状況変わってないのか)





「びっくりして目ぇ丸くしたとか?」

「そうだったらまだ望みはあったんスけどね」

「冗談でごまかされたとか?」

「…ならまだ伝わってるって捉えられるんスけど」

「……で?」



そう、それはとある日の夕方。

一緒に公営のテニスコートで打ち合った後、休憩中ベンチでのひとこま。
勇気を出して、『好きッス』と一言つぶやいた際に、隣の想い人がニィ〜っと笑顔で返した言葉。



『オレも好きだよ〜、楽しいし。
でも、まだ丸井くんとやるほうが楽C!
跡部とヤるのもちょー楽C−!』








「…テニスかよ
(つーか変な変換してんじゃねーよ)」


「あの人、わざとッスか?本気ッスか?
それとも、全部わかってるんスかね…」


「アイツは基本的にはふわふわしてっから」

「俺の告白、伝わってねぇんですかね」

「多少天然なとこもあるけどよ…
(わかっててすっ呆けてる時もあるしな。。。つーか、コイツが思うほど清純でも無ー」



こんがらがってる切原には悪いが、丸井にとって芥川は他校だが仲の良い友達で。
一緒にテニスやると楽しい気分になるし、自分をすんごく褒めてくれて、自分のことを大好き!と全身で表現してくれる。
とにもかくにも気持ちよくさせてくれる存在である。

それがイコール恋愛、というわけでもないのだが、しかし。


彼ら(丸井と芥川)は過去、お互いが彼女もちの時もあったワケでー



「……あのさ。アイツに夢みてるとこ悪いけど。
ジロ君に彼女いたらどーすんだよ」


「…え。」

「俺に聞いてきたってことは、俺とジロ君がどーにかなってんじゃないかって疑ったんだろ?」

「…はい」

「俺は彼女いないけど、アッチには確認したのかよ」

「…!!」

「ジロ君だって、高校生の男だろい」

「…いや、でも、芥川さんッスよ?!」

「知らねぇの?ジロ君、中学ん時、可愛い彼女いたぜ?」

「!!!!!」







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