切原赤也の初恋物語2
「おっちゃん、マーボー定食追加〜!」
威勢のいい声に、厨房では『おうよ!』と嬉しそうなジャッカル父が答える。
「うへぇ…」
「ブン太…いいかげんにしんしゃい」
サンマーメン、チャーハン、海鮮おこげ、かた焼きそば、からあげ定食、チンジャオロース、ホイコーロー…
はてさて、どれだけその胃におさめたのか。
一気に注文し、ものすごい勢いで片付けていったのはいいが、さらに追加注文するチームメイトに、半ば呆れてしまう。
「部活後は腹減ってっからな」
「いつもとそう変わらない気がするんスけど」
「丸井君もおうちの方はどなたもいらっしゃらないんですか?」
「ん?いや、んなことねーけど」
「…では、夕飯は」
「帰ったら食うに決まってんじゃん」
「…うへぇ。。。」
「完全なるメタボナリ」
「メタボいうな」
「でぶんた先輩…」
「あんだと!?」
「おかしいですね。あれだけ食べて…いや、あの量がこの体に消えたと考えても、どうみても体積的にー」
「深く考えてるだけ無駄じゃけ」
「ブン太…おまえ、払えるんだろうな、ちゃんと」
ジャッカルのツケ!と半ば食い逃げした過去を持つため、ダブルスパートナーとして信頼してはいるものの、店の息子として別の心配も消えない。
「はぁ…」
「赤也、どうかしたんかの」
そういえばここのところ元気が無い後輩がつくため息に、つい声をかける。
「…いえ」
「何か心配ごとでも?」
「はぁ、まぁ…」
約1名はとりあえずマーボー豆腐定食に夢中になっているため、食べ終わった3人は手持ち不沙汰でなんとなく時間をつぶしている。
(ジャッカルは部屋に戻ったようだ)
底なし胃袋を持つ赤髪のチームメイトをチラリ一瞥しため息をついた後輩をみやり、立海ダブルス1が様子を伺う。
「いってみんしゃい」
「私でよろしければ、相談にのりますよ?」
「はぁ」
どうしようか、いや。
また、赤い髪の大食いモンスターを見て、こぼれるため息が。
「丸井君、ですか?」
「ブン太がどうかしたんか?」
「…いや、丸井先輩がどうこうとかじゃないんスけど」
そう。
丸井ではない。
直接的に丸井は関係ないのだが。
後輩がため息つきつつ、チラチラとフードファイターを気にするものだから、ついつい仁王・柳生ともに丸井をじーっと見つめー
「はぁ〜食った食った!おっちゃん、うまかったぜ!」
またも威勢のいい声と食べっぷりに、厨房からは『ありがとよ。まけとくぜ』の嬉しい一声が飛ぶ。
「んぁ?!なんだ?」
3人からじーっと見られていることに気づき、思わずぎょっとする。
が、自分がいつもこんだけ食べることはこの3人、知っているはず…じゃあ何で見てンだ?と頭にハテナが浮かびあがって…
「丸井先輩…」
「あ?なんだ、赤也」
「あの…」
「?」
「えと、その」
「あ?」
「…あー」
「はっきり言いんしゃい」
「どうしたんですか?切原くん」
「なんだよ、はっきりしろい」
「あーっと、えー」
目を泳がせ、言いづらそうに丸井から目を逸らす切原に、しびれを切らしたのか。
「言うのか、言わねぇのか、何なんだ?」
「あの…質問があるんスけど」
「おう、何だ」
仁王・柳生が黙ってなりゆきを見守るなかー
「先輩、つきあってる人、いるんスか…?」
なんじゃそりゃ。
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