ここ、越えてもええですか



「月城、今日部活あらへんし甘味処よって帰ろ」

月城と付き合いだしてから一ヶ月経った。
帰り支度をする彼女に呼び掛けるとふわっと笑っておん、と返事する。テニスバックを抱えその頭をぽんと叩いて教室を出ると後ろからちょこちょこついてくる様子がやたらかわいらしかった。

「今日も善哉食べるん?」
「当たり前やろ。むしろ善哉以外の何を食うんや」
「他にも色々あんのに」

善哉ほんまに好きやねぇとのんびりと笑う彼女の手を取る。
ちょうど校門出たところやしまあええやろ。と言うとさっと顔に赤がさし、そっぽを向かれた。かわええ。
なんや悪戯したくなって一度繋いだ手を離し、指を絡めるように繋ぎ直すと慌てたように俺の顔を見てくる。
しかもその顔は真っ赤で、つい笑いが堪え切れず顔を背けて噴き出したらべしっと叩かれた。ちっとも痛くあらへん。
あーもう、あかん。

「行くで」

繋いだ手を引くようにして足早にいつもの甘味処に行く途中にある路地に入る。
彼女はわけがわからんと言った顔をしていた。
振り返って繋いだ手を引いてその小さな背中に手を回す。抱きしめたのは初めてやった。

「ざ…財前く、!」

名前を呼ぼうとしたのを強く抱きしめて遮る。
初めて抱きしめた体はふわふわと柔らかくて宇宙人みたいやった。
そっとぎこちなく背中に回される手に柄にもなく緊張してもうた。

「…好きや」
「…うん」

俺らはしばらくの間、そのまま抱き合っていた。








ここ、越えてもええですか
(どうか抱きしめさせて)

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