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「…お、来たか。」
『遅れてしまってすいません…!』
「いや、これから始める所だから大丈夫だ。」
足早にグラウンドに向かうと、先輩方と野薔薇ちゃんはもう準備ができていた。軽く準備運動をしている先輩の前に立つと、先輩がそういえば、と口を開く。
「そういや、お前の名前知らねぇな。自己紹介してなかったか。」
『あ、はい!私は1年の櫻井なまえです。よろしくお願いします、えっと…禪院先輩…?』
軽く頭を下げると、少しムスっとした顔で「私を苗字で呼ぶな。真希でいい。」と言った。
…そういえば、伏黒くんにもそう言っていた気がする。同じ事を指摘させてしまうだなんて、申し訳ない…
少し視線を下に落としていると、パンダ先輩が私と野薔薇ちゃんに声をかける。
「2人にはこれから文字通り特訓をしてもらう。まず…野薔薇は俺と棘と受け身を取る練習をしまくる。なまえは…恵が来るまで真希に近接のいろはを教えてもらってくれ。」
『はい、分かりました。』
「…なに?受け身の練習って…」
困惑する野薔薇ちゃんをズルズルと引きずってグラウンドの中央へ向かう先輩方に少し苦笑いをしていると、真希先輩が私を呼んだ。
「一応野薔薇からなまえの戦闘スタイルは聞いた。…とりあえず、私から一本取ってみろ。」
『…え?!一本取る、ですか?』
「あぁ。実物を見たほうが分かりやすいからな。武器もお前が普段使っているやつでいい。」
『えっと…じゃあ…はい…』
困惑しながらも腰に着けていた五鬼助を手に持つと、真希先輩が少し目を見開く。
「お前、それ…」
『え?…あ、これ、五条先生にいただいた物で…』
「ふぅん……そうか。ま、それの話は後でしてやるよ。」
来い、とでも言うように私に手招きをした真希先輩に、五鬼助を握り締めて飛びかかる。
当たると思って振り下ろした鎌は先輩には当たらず、持っていた薙刀で防がれてしまう。
一度距離を取って違う角度から攻めようとすると、間髪入れずに回し蹴りをくらってしまった。
早すぎる切り替えに追いつけず、蹴られた勢いのまま地面に転がると、先程の場所に先輩はおらず、もう目の前まで来ていた。目の前まで迫る薙刀を避け、やっとの思いで距離を取る。
「…意外と動けるじゃねーか。」
『…先輩程では無いですけどね。』
まだまだ余裕の先輩を前に、自分の力不足を実感する。また先輩へ向かっていくと、思い切り投げ飛ばされてしまった。
『いたた……』
「なまえはまず、五鬼助の特性を理解する所から始めるか。」
そう言った真希先輩は私の持っている五鬼助を指差して説明を始めてくれた。
「なまえが持っているそれは、一級に部類される呪具だ。扱いがとんでもなく難しいらしい。」
『はぁ、一級…………ぇ、一級ですか??!!』
思わず声をあげると面白そうに笑いをこぼし、詳しい説明を口にした。
「あぁ。五鬼助は元々謎の多い呪具でな。経緯やらなんやらは不明だが、愛知県のある山村の神社で見つかったらしい。」
『…そんなに謎が多いものだったんですね…』
「謎が多い上に扱いづらいんだよ、それは。大抵の呪術師は五鬼助を持っているうちに呪力を吸い取られちまうんだ。だから、よっぽど呪力が多いか、呪力が極端に少なくないと使えないって言われてる。」
『えっ、そんな感覚…感じたこと無いですけど…』
困惑しながら自分の掌に収まる五鬼助を見るが、特に何も変化はない。…確かに五条先生も「ちょっと変わってる」とは言っていた気がしたけれど…そんなに不思議なものだったとは。
しばらく見つめていると、真希先輩は私の前にしゃがみこんでまた口を開いた。
「おそらくだが、なまえの場合は呪力が少ない方だと思うぞ。お前は呪力が発生したのは最近らしいしな。」
『確かに…呪力が少ないから扱える代物、ってことなんですね!』
「あぁ。あとは…お前と五鬼助の相性もあると思うがな。」
『相性、ですか…すごい、奥が深いんですね!』
しばらく呪具についての話を聞いていると、階段の方から音がする。
後ろを振り向くと、ジャージに着替えた伏黒くんが歩いてきていた。
『伏黒くん!』
「やっと来たな、恵。どこ行ってたんだ?」
「別に…どこだっていいでしょう。」
伏黒くんはそう言ったっきり口をつぐんでしまった。
…行った先で何かあったのだろうか。なんと声をかければいいのか分からずにいると、伏黒くんがつぐんでいた口を開いた。
「…禪院先輩は、呪術師としてどんな人間を助けたいですか?」
「あ?別に私のおかげで誰が助かろうと知ったこっちゃねぇよ。」
「……聞かなきゃよかった。」
「あぁ??!!」
2人のやりとりに思わず小声で笑っていると、先にグラウンドの中心に向かっていった真希先輩をぼーっと眺めながら、伏黒くんがまた口を開いた。
「…櫻井は、呪術師としてどんな人間を助けたいと思う?」
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