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目を見開いた伏黒くんの様子など気にせずに、フラフラとしながら宿儺に向き直る。


「ん?…あぁなんだ、まだ生きていたか。先程の微弱な攻撃でもう死んだと思っていたぞ。」

『……今…』

「なんだ?命乞いなら、聞いてから殺して、」

『今お前、何て言った…?!?!!』


爪が食い込んで血が出るのも気に留めず、鎌を握る手に力を込める。
胃が煮えくり帰って最悪の気分の中、私の頭には憤怒の感情が溢れ出していた。


『…さっきからべらべらと、くだらないだの価値がないだの、誰の事を悪く言っているの?まさか虎杖くんじゃないよね?呪いの王だとか何だとか知らないけど、虎杖くんを侮辱するなんて許さない、虎杖くんの体を奪うなんて許さない、虎杖くんを殺すなんて許さない、私の光を消すなんて、許さない…!!!!』


頭にふつふつと湧く激怒の感情のままに言葉を吐き出すと、宿儺はより一層楽しそうに口を歪めた。


「ほぉ、いい顔だな…ほれ、悔しいなら俺を殺してみたらどうだ?」


その言葉を聞き終わる前に斬りかかると、目にも止まらぬ速さで首を絞められる。
凄まじい力に鎌を落とし、宿儺の手を掴んで抵抗する。


「はは、非力だなぁ…ほれ、頑張れ頑張れ…!」

『ぁう、うぐぅ、ぁ…』


首を絞められながら声を捻り出そうとするが、出るのは呻き声だけ。

…悔しい。

悔しい悔しい悔しい悔しい悔しい悔しい悔しい悔しい悔しい悔しい悔しい悔しい悔しい悔しい!!!!!
此奴さえ、此奴さえいなくなれば虎杖くんが戻ってくるのに!!!
無力な自分が悔しい。手も足も出ないのが悔しい。…弱いのが、悔しい。

悔しさと憤怒が混じり合い、頭の中が真っ黒になる。
するとその瞬間、私の足元に落ちたはずの鎌が、宿儺の真後ろに浮かび上がる。


「…なに?」


黒いモヤと共に浮かび上がった五鬼助が目にも止まらぬ速さで宿儺の首元へと刺さる。
…残念ながらそれもダメージは無く、簡単に抜き取られて投げ捨てられてしまった。
だが、宿儺は私はと視線を戻してから軽く私を伏黒くんの近くへと放り投げた。
いきなりで受け身が取れずに崩れ落ちる。


「…気が変わった。櫻井なまえ、お前は後で相手をしてやる。」


待っていろ、と圧をかけられ、反論してやろうと思ったが体にうまく力が入らない。
すると、私が立つよりも早く伏黒くんが立ち上がった。
深く息を吐いた伏黒くんが、戦闘態勢を取る。
すると、周りの空気がガラリと変わり、ピリピリとした雰囲気が肌越しに伝わる。
それが宿儺にも伝わったのか、先程よりも口元を歪めて口を開く。


「いいぞ…お前が命を燃やすのはこれからだったわけだ。…なるほど、そうか、それなら…見せてみろ!!!伏黒恵!!!!!」


そう叫んで伏黒くんの元へと歩いていく宿儺が、ふと足を止める。
不思議に思い様子を伺うと、伏黒くんも戦闘態勢を解き口を開いた。


「…言っておくが俺は、お前を助けた理由に論理的な思考は持ち合わせていない。危険だとしてもお前のような善人が死ぬのを見たくなかった。…それなりに迷いはしたが、結局は我儘な感情論…」


伏黒くんが淡々と話しているのは、先程虎杖くんと喧嘩していた時のことについてだと分かる。
話している伏黒くんの前に立つ宿儺を見ると、だんだんと体の模様が薄くなっている様な気がして、動かない足を引きずって2人に近づく。


「でも、それでいいんだ。俺はヒーローじゃない。
………呪術師なんだ。だからお前を助けたことを、一度だって後悔したことはない。」


そう言い終わると、ちょうど虎杖くんの体から宿儺の刺青が消える。


「…そっか!やっぱ伏黒は頭いいからな、俺より色々考えてんだろ。お前の考えは正しいと思う。でも俺が間違ってるとも思わん!あ、あとなまえ、俺の為に怒ってくれたろ?ありがとな、微かにだけど聞こえてたんだぜ!」


いつもの眩しい笑顔でそうお礼を言う姿は、紛れもなく私たちの知る虎杖くんだった。
私が口を開こうとすると、虎杖くんの傷口から血が滴る。


「…悪い、そろそろだわ。伏黒も、釘崎も、なまえも、五条先生…は、心配いらねぇか。」


空を見上げてそう呟くと、虎杖くんの体がふらりと傾く。血の気が引けるような感覚の中、聞こえたのは虎杖くんの声だった。


「…長生き、しろよ……」


それだけを言い残し、目の前に音を立てて倒れてしまう。
慌てて這いずりながら近づき、虎杖くんの肩に触れる。
暖かいはずの体温は感じられず、雨と血だけが淡々と流れ出す。


『ぁ、あ、ぁあ…!!!虎杖くぅぅぅん!!!!!!!』









その日、虎杖悠二は…死んだ。

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