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「な、何を?!」


私と同じく震えた声で伏黒くんが叫ぶ。
その声を聞いて面白そうに目を細めた宿儺は入れていた手を勢いよく取り出し、私たちに見せつける。
その手にはまだドクドクと動く心臓が握られており、まだ血が噴き出している。


「小僧を人質に取ることにした。」

『…ひと、じち…?』

「あぁ。俺はこれなしでも生きていけるが、小僧はそうもいかん。俺と変わることは死を意味する。そして更に…ダメ押しだ。」


余裕そうに笑った宿儺は指らしきものを口に運ぶ。…もしかしたら、中にいた特級呪霊が取り込んでいたのかもしれない。


「…さてと、晴れて自由の身だ。もう怯えていいぞ、殺す!特に理由はない。」


目の前の男から発せられる殺気と圧は凄まじく、思わず息を呑む。
恐怖で強ばる感覚、これが本当の死への恐怖なのだろう。そして…虎杖くんもそれを経験している。今宿儺が自由に動けているということは、虎杖くんは気を失っている、もしくは仮死状態だということになる。…考えただけでも、心配で頭がおかしくなりそうだ。
今目の前にいる呪霊と対峙すべく、戦闘態勢を取ると、伏黒くんも同じタイミングで足を引いた。


「…分かってないんだな。アイツは…虎杖は必ず戻ってくる。」

『…その結果、自分が死んでしまったとしても…絶対に。虎杖くんは…そういう人だから。』


反論するかのように放たれた伏黒くんの言葉に続けて口を開くと、それを聞いた宿儺が忌々しく口を歪めた。


「買い被りすぎだな。此奴は他の人間より多少頑丈で鈍いだけだ。…先刻もな、今際の際で怯えに怯え、ごちゃごちゃと御宅を並べていたぞ?…断言する!奴に自死する勇気はない!!」

『……お前…!!!』


こちらが黙って聞いていれば調子に乗ってべらべらと話を続けて、と口を開こうとすると、伏黒くんが私を手で制す。
今すぐにでも怒鳴ってやりたい気持ちを抑えながら伏黒くんを見ると、私にチラリと目配せをしてから自身の式神、を召喚した。
…伏黒くんは、何よりも先に心臓がないといけないと思わせたいのかもしれない。だから、少しでもダメージを与えに…
意図を汲み取った私が五鬼助を構えると、伏黒くんも軽く頷いて宿儺へ向き直る。


「せっかく外に出たんだ…広く使おう。」


余裕綽々、といった様な様子のままの宿儺に伏黒くんと2人で攻撃を仕掛ける。
伏黒くんが打撃での攻撃をした後にスピードは速いままで斬りかかる。だがその攻撃に臆することもなく宿儺が口を開く。


「面白い、式神使いのくせに術師本人が向かってくるか。」


私たちの攻撃の間に入ったが後ろから宿儺を狙うが、それも避けられてしまう。
眉間に皺を寄せながら休まずに攻撃を続けると、また口を歪めながら私を軽く指差す。


「それにお前、面白い動きをするなぁ。悪くない。」


馬鹿にしたように笑い、また私たちの攻撃を軽々とかわす。
2人で前後から殴りかかる様に攻め続けていると、心底楽しそうに口を歪めた。


「もっとだ…もっと…もっと!!!」


そう叫んだ宿儺が私と伏黒くんを掴んで顔を突き合わせる様な態勢に持ち込まれる。


「もっと呪いを込めて…打ってみろ!!!」


そのあまりにも恐ろしい圧に一瞬息が止まると、投げ倒されてしまう。咄嗟に受け身を取った時、伏黒くんが式神である大蛇を出す。
大蛇は宿儺を咥えたまま空へと登り、と連携して攻撃をしかける。


「畳みかけろ!!!!」


そう叫んだ伏黒くんの意思に応える様に奮闘しているようだったが、突然爆発して姿を消してしまう。
顔を顰めて空を見上げていたその瞬間、背中の制服を掴まれる感覚がした。
視線だけを後ろにやると、宿儺が私と伏黒くんの制服を掴んでいた。


「…言ったろ?広く使おう!!!!」


そう叫んだ宿儺に放り投げられ、林を抜け、建物の壁へと激突する。
背中から骨の軋む嫌な音と、ぐちゃりとした肉の裂ける音が聞こえる。…おそらく私の体は酷い有様だろう。
少し霞んだ視界の中で空を見上げると、に掴まれた伏黒くんが宿儺に殴られるのが見えた。


『…向こうに、行かなきゃ…!!』


まだ血の止まる気配のない体を起こし、精一杯の力を入れて伏黒くんが落ちていった場所へと走る。人間は死にかけだと普段以上の力が出るのか、数mかの距離をすぐにかけていくことができた。
辿り着いたその場では、ぐったりとした伏黒くんの前に宿儺が仁王立ちして話をしていた。


「…まぁいい。どのみちその程度ではここは治さんぞ。」


宿儺は体に開いた傷口を指差しながらそう言っていた。息を殺しながら様子を伺う。


「…お前も小娘も、くだらんことに命をかけたな。この小僧にそれほどの価値はないと言うのに。」

『……は?』


澄ました顔でそう言った宿儺に、思わず声が出た。

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