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4人が待っていた場所に辿り着くと、五条先生が軽く手をあげる。


「よーし、なまえも帰ってきたし、飯行きますか!!」


その声に喜びの声を上げた虎杖くんと野薔薇ちゃんが飛び跳ねる。
私がそれを見て微かに笑うと、伏黒くんも呆れたように笑う。
夕暮れの道を5人で歩いていると、ふと虎杖くんが目に入る。

虎杖くんの顔はいつものように眩しい笑顔が浮かべられている。それに、心なしかいつもよりも楽しそうに話している。
私はそれを見て、なんだか満たされた気持ちになる。


『(あぁ、今日も虎杖くんが生きていてよかった。)』


そんな安堵を抱え、前を歩く4人について行った。


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初めて呪霊を祓ってから数日後、雨が降るどんよりとした空気の中私を含めた一年生4人は召集された少年院の前に立っていた。
重々しい雰囲気の中口を開いたのは、私たちをここまで送迎してくれた伊地知さんだった。


「我々の窓が呪霊を確認したのは3時間ほど前。避難誘導9割の時点で現場の判断により施設を封鎖。半径500m以内の住民も、避難が完了しています。」


施設の封鎖、避難誘導。先日まで一般人だった自分には聞きなれない言葉に思わず肩に力が入るが、隣で口を開いた虎杖くんの声で緊張が解ける。


「伊地知さん質問!窓って、なんすか?」

「窓というのは、呪いを視認できる呪術高専関係者の事です。術師ではないですが…」

「おー、なるほど…」

「…続けますよ。」


疑問が解決し、軽く頷いた虎杖くんを確認した伊地知さんは施設を見つめながら説明を続ける。
宿舎の中には5人の受刑者がまだ呪体と共に取り残されており、その呪霊は特級呪霊の可能性があるということ。


「なぁなぁ、俺まだ特級とかよく分らねぇんだけど?」

『ごめんなさい、私も…』


緊迫した雰囲気の中恐る恐る口を開くと、呆れたようにため息をついてから伊地知さんが口を開いた。


「では、バカでも分かるように説明しましょう。」

『(バカ…)』

「まずは4級、木製バットで余裕です。次に3級、拳銃があればまぁ安心。2級、散弾銃でギリ。1級、戦車でも心細い。そして特級、クラスター弾での絨毯爆撃でトントンでしょうかね。」

「やべぇじゃん?!!!!」
『うわぁ…』


思わず不安の声が出ると、仕方ないと言ったように伏黒くんが口を開く。

「本来は呪霊の級に合った術師が任務に当たるんだ。今日の場合だと五条先生とかな。」

『でも、五条先生は今…』

「あぁ、出張中だ。…というか、そもそも高専でプラプラしてていい人材じゃないんだよ。」


その言葉と共に、出張に行く前のケロッとした五条先生の様子を思い出す。確か、お土産は期待するなって言っていたっけ。
…確かに、凄さが薄れている気がする。


「…残念ながら、この業界は人材不足が常。手に余る任務を請け負うこともあります。…ですが…」


先程よりも神妙な雰囲気を纏った伊地知さんは眼鏡を上げながら視線を鋭くして話を続ける。


「今回は緊急事態で異常事態です。絶対に戦わないこと。特級と対敵した時の選択は、逃げるか、死ぬかです。」


未だかつてない厳重な注意に、思わずみんなも息を呑む。心なしか伏黒くんも表情が険しくなっている気がした。


「自分の恐怖には素直に従ってください。君たちの任務はあくまでも生存者の確認と、救出であることを忘れずに。」

「あのっ!!!!」


伊地知さんの注意にかぶるように女性の声があたりに響く。声のした方向を見ると、警備の人に止められながらもこちらに話しかけている女性がいた。


「あの、うちの正は!?」

「ダメです、下がって!下がってください!!」

「正は、息子の正は大丈夫なんでしょうか?!!」


悲痛な叫びに心を痛めたのか、悔しそうに顔を歪める虎杖くんの前に伊地知さんが立つ。
彼女は面会に来ていた保護者であると小声で私たちに伝え、また女性に向き直る。


「お引き取りください。何者かによって施設内に毒物が撒かれた可能性があります。現時点で、これ以上のことは申し上げられません。」

「そんな…」


伊地知さんの言葉に絶望し、力が抜けたように座り込んで泣く女性に、どことなく自分が重なる気がした。
大切な人が、突然生死が分からないような危険な状態に晒されるなんて、きっととてつもない絶望だと思う。

…もし、私があの女性の立場だったら。虎杖くんが生死不明の状態になったら。
…考えるだけで全身から血の気が引く。あの女性も、その状況であるということだろう。


「…伏黒、釘崎、なまえ。…助けるぞ。」

「当然。」

「…あぁ。」

『もちろん。』


私に出来ること、全力でやらないといけない。
…あの絶望は、私もよく知っているから。

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