カリュプス鉱山に入ると、すぐに違和感を感じた。
空気が違う……とでも言えばいいのか。
有毒ガスが流れているとか、そういうのではなくって。
別世界のようだ。
「これは……ッ!」
珍しい事に、コンウェイが驚いた。
何か知っているんだろうか。
「この感じ……コンウェイと初めて会った森となんか似てるな」
「ヘ、ヘソがピリピリするんだな、しかし!またピンチなんだな、しかし!」
ルカ、イリア、スパーダの三人―――と、コーダの一匹はこの異質な空気に覚えがあるらしい。
「……何らかの理由で、異世界への入り口が開いてしまったようだね」
「い、異世界の入り口?」
「この世界とは違う、別の世界への入り口さ。まだ開ききってはいないようだけど」
私が聞きたいのは、そういう事ではないんだが。
いきなりそんな異世界とか言われても。
「ここもまた、時空の歪みに近い場所……」
「何故、そんな事を知っている?」
リカルドさんのその質問は、私達全員の前々からの疑問でもあった。
コンウェイについては、謎が多すぎて考えるのも面倒になっている節がある。
まず転生者でもないのに記憶の場を巡る旅に同行している理由が分からない。
そして、私やハスタ、チトセさんを別の名で呼んでいる事も気にかかる。
コンウェイ・タウ……自称『魂の救済者』。
……魂の救済、か。
「ボクからすれば、逆なんだけどな。ボクにとっては常識だから。じゃあ逆に聞くけど、何故こんなことも知らないの?」
見下したようなコンウェイの表情と言葉に、返答する者は誰もいない。
質問したリカルドさん自身、口を閉ざしてしまった。
「答えられないでしょう?知らないことになんて、理由はないから。ボクだって同じさ。理由なんてない。ボクにとって当然のことを、当然のこととして知っているだけだから」
コンウェイの発言はいちいち回りくどい。
言いたい事はなんとなく分かるし、理解もできない訳じゃないが、どこか雲のようでフワッとしていて掴めない。
どこかぼやかされている。
「……で、どうする?行く?帰る?」
「……コンウェイ。今回も手を貸してもらえるの?」
「もちろん。キミたちと出会ったときの約束だからね」
「……じゃあ、行こう。少なくとも、行けるところまでは行ってみようよ」
「だな……ずっと足止めなんてごめんだしな」
最初から、帰るつもりなんてないだろうに。
彼らに引くという選択肢は、見えない。
「……はぁ」
「リトスさん、ため息をつくと幸せが逃げるよ」
「……コンウェイ、知っていますか」
「何をかな?」
「……“ため息をつくと幸せが逃げる”って、私の前世の名言なんです」
むしろ……迷言?
「へぇ。後世にまで残っているなんて、リトスさんの前世はすごいんだね」
「あなたのように言えば『運命の彷徨い子』ですね」
「……」
含みのある笑みが、私を見つめた。目の奥はまったく笑っていない。
詳しく答える義理はないとでも言いたげだ。
「誤解しないでほしいんだけどね、リトスさん。ボクはキミたちを救いたいんだ」
「……だから、それどういう意味ですか?」
「そうかな?心当たりはあるでしょう」
断言されてしまい、私は言葉が出てこなかった。
「ボクは、魂の救済者。キミや、魔槍や花姫に幸せになってもらう為にここにいる」
「……コンウェイ、知っていますか」
「何をかな?」
「大きなお世話って言うんですよ。それ」
私は先に進んでいるアンジュやエルの背を追って走り出した。
本当に、大きなお世話っていうやつだ。そのくせ、何も語らない。
私は、それがとにかく気に入らない。
今度私が食事当番の時は、トマトオンリーの食事を作ってやろう。
そして、私はニーゲルに足を踏み入れた。