彼の、楽しそうな声が響いた。
「クソガキッ!!」
わたしは、久しぶりのその声に、鼓動が早くなるのを感じた。
「ゲイボルグッ!!どうしたの!?何でここにいるの!?何でわたしがここにいるって分かったの!?ねぇ、元気にしてた!?いっぱい殺した!?幸せ??ねぇ、幸せ!?」
「るせェぞ、ガキ!!ちっとは落ち着け!!静かにしろッ!!」
「だって、だって、だってわたし、嬉しいの!!」
興奮状態、というやつ。
わたしは今、幸せを感じている。
「んなもんオレだって嬉しいさッ!!随分な美女になってんじゃねェかッ!!」
「再会して言うことがまずそれ!?どーせわたしは発育の悪いガキでしたよー!!」
「つーか、てめー分かってんのか?自分がどんな見た目なのか」
「ぜんっぜん分かんない!」
「だろうなッ!!……すっげぇ綺麗になってる」
「……あ、ありがと?」
熱っぽい声に戸惑いながら、わたしは頷いた。
とにかく、幸せだ。
心が満たされて……今までの孤独が、癒される……。
「おい、クソガキ」
「なぁに、ゲイボルグ」
「お前……オレと来い。一緒に遊ぼうぜ?」
「……遊ぶ?」
ゲイボルグが笑った。
「あぁ!!オレの使い手になれ!!そんで、そんで殺すんだッ!!お前に見せてやりたいんだよッ!!お前の、その、赤い瞳みてェに、綺麗な……綺麗な血の雨をッ!!」
狂ったようにゲイボルグが声を荒げた。
「……あ、えっと、ゲイボルグ……無理、だよ?わたし、目が」
「オレが見えるようにしてやる。……オレを持て」
「えっ?」
「ああ、今オレを持ってるヤツなら気にすんな。もうダメだから」
「……ダメ、そっか……」
じゃあ、わたしが……目、見えるようになるの?
ゲイボルグが、わたしに目の光をくれるの?
どうやって?本当に?
わたしは、ゲイボルグに手を伸ばす―――。
「―――んぅっ……!!」
ゲイボルグの光を掴む。掴んで、わかった。
すごい、力。気を抜いたら、飲み込まれそう。
昔ゲイボルグを抱きしめたことがあったけど、その時には、感じなかった……。
私の中に、何かが入ってくるのが分かる。
「テュケー」
ゆっくりと、目を開ける。
「―――あっ……!?」
「どうだ!?」
「み、える、みえる、みえる……見える!見える!!すごい!!すごいよ、ゲイボルグ!!何で!?ねぇ、何で!?」
初めて、初めて、見た。
全てが、はっきりと見えた。
「ただただ殺してた訳じゃねェんだぜ、オレも。お前の為に、より強い生命を殺してきた」
「え?」
「殺して、その生命力をお前の目に流す……これなら、お前が、目が、見えるんじゃねェかって」
目の奥が、熱くなった。
目から、水が流れた。
「なーにを泣いてんだ、クソガキ!!嬉しくねェのか!?見たかったんだろ、世界が!!」
「う、嬉しいの!嬉しいけど……泣いちゃうの!!」
涙。涙だ。
初めて流した。
「んじゃあ、このまま初めての殺しといくかッ!!」
「……ど、どれ、から?」
「激戦区の方だな……この辺の連中は手応えがねェ……」
ゲイボルグはぶつぶつ言っている。
「まぁ、いいか……おい、テュケー」
「ん?」
「―――殺すぞッ!!血ッ!!血をいっぱい見せてやるからなッ!!今のお前にはきっと血が似合うぜぇ!?返り血で真っ赤な血化粧をしたお前……あぁッ、早く見たいッ!!見せてくれッ!!殺せッ!!早くッ!!早く血を被れッ!!血を求めろッ!!」
「……うんっ!」
……わたしは、悲しくて泣いているのがわかった。
……でも、気付かないフリをした。
だって、あなたが喜んでくれるから。
あなたが幸せなら、わたしは確かに幸せだから。
だから、本当は戦いは嫌いだけど、誰かが死ぬのは嫌だけど、それらは全て、あなたの幸せの糧になるのだと我慢した。
あなたが好き。
あなたと一緒に痛い。
あなたさえいればいいから。
わたしが血に汚れれば、あなたは喜んでくれる。
あなたの幸せ。
わたしは、辛いけど、苦しいけど、幸せ。
不幸なのに、幸せ。
「ゲイボルグ……もう、離れない?ずっと、一緒?」
「当然だろうが!?お前が離れたいっつっても離してなんかやるか!!もしそんなこと言ったらお前殺すからな!!……あ、お前の血、なぁ……キレイだろうなぁ……!!」
……わたしも、狂わなければいけないのだろう。
本当は、全部嫌だけど……。
大好きな彼の為、だから。