真っ暗闇な世界では、目をしっかり開いていようとも、真っ暗闇だ。
黒一色。
最初は、これが黄泉の国なのかなと思ったけれど、違うと分かった。
最後の最期で……わたしには仕事が残っている。
最期の『運命廻し』。
最期の『運命弄び』。
……なんとでも捉えられるけど……。
一体何を廻せばいいの?
わたしは死ぬんだから、何を廻したって関係ないのに……。
「……あはっ」
何故か笑いが零れた。
わたしは、わたしではない何かに侵食されている。
全てが終わって、解放された今なら分かる。
これはゲイボルグの気だ。
彼の狂気。
飲まれていないと思ったけれど、わたしは十分彼の狂気に侵されていたみたいだ。
……抗えない。
……だから、こんなにも。
狂ってしまいそう。
「あははっ……あはははははははははははははははははっ!!」
この世界のことなんて、わたしは知らない。
どうなろうが、そんなの関係ない。
この世界は元々おかしいんだ。
だったら、もう狂ってしまえ。
全て……全て!
「全てが不幸になればいい……そうだ……全て、世界までも、不幸にッ!!」
運命は廻り始める。
狂ったわたしの手によって。
「まずは……アスラ……!あなたから……!!あなたから、落として差し上げましょう……。愚者の崖から、落として……全てに絶望すればいいッ!!」
この世界に、不幸を。
運命神の呪いを。
いつまでも―――。
あの子供にとって、何が一番幸せなのか……。
そんなもの、“マトモ”な自分は分かっていた。
運命を廻す方に決まっている。
例え運命を廻す代償に生命を削られたとしても、それに見合った報償は与えられる。
彼女の生命力は元に戻り、再び運命は廻される。
世界にとっても、彼女にとっても。
それが最善で幸福だった。
自分と出会った事が、不幸だったんだ。
自分と再会した事が、間違いだったんだ。
分かってはいたけれど……。
自分は彼女が好きだったから、愛していたから、求めずにはいられなかった。
“マトモ”な自分は、鬼神と所謂弟に殺された憎しみよりも、それ以上に……彼女との『約束』が頭に浮かんだ。
「ああ……探して、やらねェとなァ……」
生まれ変わって。
転生して。
たとえ姿や世界が変わったとしても……。
探して、求めて……。
「ヒトの姿をとれたら……手、握ってやりたいなァ……。別に……オレが繋ぎたい訳じゃないけどよ……クソガキが、あんまりにも可哀想だからな……」
自分はヒトの姿じゃないから……手を伸ばす事もなく、涙を流す事もなく。
気が付いたら、意識を失くした。
僅かで不安定な鬼神達への殺意と……あのクソガキを探さなくてはと強い意志を最期まで持ちながら……。
運命神は、狂気を孕ませ、世界に不幸を廻した。
それが正しいのかも、狂っているのかも……どうでもよかったと。
最期は本来の無関心を貫いて、終わった。
魔槍は、狂気よりも、溺愛した迷子との約束を思った。
あの迷子が自分の狂気に充てられた事を後悔して……後悔して。
最期まで彼女の事を考えて、終わった。
私は、それらを受け継いだ転生者―――。
私は運命神の転生者だ。
彼女の無関心さと僅かな狂気と、常に迷子である事を受け継いだ。
そこに入り込んだのは、ずっと一緒にいた魔槍の魂だ。
魔槍の哀れみと僅かな殺意と、常に『最愛』を探す事を受け継いだ。
二つの魂が絡む。
二つの人格。
矛盾が生まれやすく、そして支離滅裂になりやすい。
私は実際そうだった。
彼も……そうだ。
彼の場合はそれがデフォルトのようだけど。
私が私じゃない感覚……それは、当然の事だった。
私は……運命神の転生者でありながら、魔槍の転生者であったのだから。
さて。
では何が一番の問題なのか?