死んでしまった物語・5





真っ暗闇な世界では、目をしっかり開いていようとも、真っ暗闇だ。
黒一色。

最初は、これが黄泉の国なのかなと思ったけれど、違うと分かった。
最後の最期で……わたしには仕事が残っている。

最期の『運命廻し』。
最期の『運命弄び』。

……なんとでも捉えられるけど……。

一体何を廻せばいいの?
わたしは死ぬんだから、何を廻したって関係ないのに……。

「……あはっ」

何故か笑いが零れた。
わたしは、わたしではない何かに侵食されている。

全てが終わって、解放された今なら分かる。
これはゲイボルグの気だ。
彼の狂気。

飲まれていないと思ったけれど、わたしは十分彼の狂気に侵されていたみたいだ。

……抗えない。

……だから、こんなにも。

狂ってしまいそう。

「あははっ……あはははははははははははははははははっ!!」

この世界のことなんて、わたしは知らない。
どうなろうが、そんなの関係ない。

この世界は元々おかしいんだ。
だったら、もう狂ってしまえ。

全て……全て!

「全てが不幸になればいい……そうだ……全て、世界までも、不幸にッ!!」

運命は廻り始める。

狂ったわたしの手によって。

「まずは……アスラ……!あなたから……!!あなたから、落として差し上げましょう……。愚者の崖から、落として……全てに絶望すればいいッ!!」

この世界に、不幸を。

運命神の呪いを。

いつまでも―――。










あの子供にとって、何が一番幸せなのか……。
そんなもの、“マトモ”な自分は分かっていた。

運命を廻す方に決まっている。

例え運命を廻す代償に生命を削られたとしても、それに見合った報償は与えられる。
彼女の生命力は元に戻り、再び運命は廻される。

世界にとっても、彼女にとっても。
それが最善で幸福だった。

自分と出会った事が、不幸だったんだ。
自分と再会した事が、間違いだったんだ。

分かってはいたけれど……。
自分は彼女が好きだったから、愛していたから、求めずにはいられなかった。

“マトモ”な自分は、鬼神と所謂弟に殺された憎しみよりも、それ以上に……彼女との『約束』が頭に浮かんだ。

「ああ……探して、やらねェとなァ……」

生まれ変わって。
転生して。

たとえ姿や世界が変わったとしても……。

探して、求めて……。

「ヒトの姿をとれたら……手、握ってやりたいなァ……。別に……オレが繋ぎたい訳じゃないけどよ……クソガキが、あんまりにも可哀想だからな……」

自分はヒトの姿じゃないから……手を伸ばす事もなく、涙を流す事もなく。

気が付いたら、意識を失くした。

僅かで不安定な鬼神達への殺意と……あのクソガキを探さなくてはと強い意志を最期まで持ちながら……。










運命神は、狂気を孕ませ、世界に不幸を廻した。
それが正しいのかも、狂っているのかも……どうでもよかったと。
最期は本来の無関心を貫いて、終わった。

魔槍は、狂気よりも、溺愛した迷子との約束を思った。
あの迷子が自分の狂気に充てられた事を後悔して……後悔して。
最期まで彼女の事を考えて、終わった。



私は、それらを受け継いだ転生者―――。



私は運命神の転生者だ。

彼女の無関心さと僅かな狂気と、常に迷子である事を受け継いだ。

そこに入り込んだのは、ずっと一緒にいた魔槍の魂だ。

魔槍の哀れみと僅かな殺意と、常に『最愛』を探す事を受け継いだ。

二つの魂が絡む。
二つの人格。

矛盾が生まれやすく、そして支離滅裂になりやすい。
私は実際そうだった。

彼も……そうだ。
彼の場合はそれがデフォルトのようだけど。

私が私じゃない感覚……それは、当然の事だった。
私は……運命神の転生者でありながら、魔槍の転生者であったのだから。

さて。
では何が一番の問題なのか?




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