これは哀じゃない・1





ゲイボルグを好きになったのに、理由なんてなかった。
彼の持つ強い光にわたしは焦がれ、惹かれた。
その光があれば、わたしは生きていけると思った。
実際、生きてこられた。
彼がわたしに生きる意味を教えてくれた。
わたしに価値を与えてくれた。
元老院の奴らに言われた役目なんかよりずっといい役目。

「お前はそうやって、オレの前でバカみたいに笑ってればいいんだ」って。

そう言われて、わたしは決めたの。
わたしはずっとこの魔槍の為に全てを捧げようって。
一目惚れからしばらく経って、わたしは本格的に彼を愛することにした。愛したかった。
彼がどれだけ嫌がっても、わたしは毎日彼の元へ通って、彼と話し込んだ。
彼が本気で嫌がっている訳ではないと知ると、調子に乗り出したりもした。
わたしの笑っている顔が好きだと言う彼に、わたしは毎日笑顔を見せた。
どんなに悲しくても、どんなに辛くても、できるだけわたしは笑い続けた。
彼がわたしのことを同じ意味で『好き』だと言ってくれた時、わたしはとても幸福だった。
これ以上の幸せはないだろうに、わたしはそれ以上の幸せを求めた。

そして、幸福の恐ろしさを知った。

幸せはいつか終わり、不幸が廻る。
……そんなこと、運命の女神であるわたしは知っていたはずだ。
だけど、この時間が終わってしまうのは嫌だった。ずっと幸せでありたい。
ようやくわたしはかつての運命神たちの罪を理解する。
確かに、幸福な運命とは貪欲になる。
もっと欲しいと思う。
私利私欲の輪を廻してしまうのも、解らないでもない。
しかし、わたしはもっと純粋な女だ。
自分の幸せなんてどうでもいいの……幸を廻すのはゲイボルグだけでいい。
そう……彼の幸せがわたしの幸せになるのだから、わたしの幸せなんて廻さなくったっていい……!
ただゲイボルグが幸せであってくれれば、それでいいのだ。
大好きなゲイボルグに奉仕できるだなんて、これ以上ない幸せだ。
彼が喜んでくれると言うのなら、わたしは生死すらも執着しないだろう。
全て……全て全て全て全て全て全て全て全て全て全て全て全て全て全て全て全てがゲイボルグの為に。

彼と離れ離れになっても、わたしの想いが消え失せることはなかった。
それどころか、想いはますます強く、濃く、重くなっていくばかりだ。
会いたい気持ちを常に抱いて、彼の為に幸を廻して―――。
永劫に続くかと思われたその孤独の中で、彼が再びわたしに光を見せてくれた。
嗚呼、わたしが愛する彼の光。
魔の名を冠しても、彼は何よりも美しかった。
やはりわたしはゲイボルグが好きだ。
愛している。
周りに何て言われようと、どれだけ狂っていると否定されようと。
そんなものはどうでもいいんだ。
彼への愛がわたしの全てなのだから。

「テュケー……愛してる」

狂ってイカレた笑い声の中にある、わたしにだけ向けられた優しい声音……。
ああ……ああ……その声と言葉を聞く為ならば、わたしはいくらでも殺すでしょう。
あなたの身に血を塗り、そしてわたし自身にも血を濡らす。
いくら血で汚れたって構わない。
だって、ゲイボルグが綺麗だって、美しいって言ってくれるから。
魔槍?
魔槍の花嫁?
いいだろう。
好きなように呼べばいい。
どうせ分からないのだから。
彼の為に尽くすというこの幸福を。
彼の為に殺すというこの喜びを。
幸せすらも通り越した、この純粋で狂気的な想いを!

彼が狂っていると言うのなら、わたしもどこまでも狂うでしょう。
どんな時も彼と一緒で同じがいい。
来世でも、わたしはまたゲイボルグを愛する。
愛さなければいけない。
だって、愛されたい。
ゲイボルグだけがわたしの居場所。
ゲイボルグだけがわたしの理解者。
ゲイボルグだけが、ゲイボルグだけが、ゲイボルグだけが。
わたしの全て。
そう。
全て。
他には何もないの。
彼だけなの。

……わたしの心も身体も、全てはゲイボルグのもの。

「ゲイボルグ、愛しているよ」
「どうした、急に」
「急にじゃないよ。ずっと思ってることだよ」
「そうかい」
「ゲイボルグは?わたしのこと好き?愛してる?」
「ああ。殺してやりたいくらいに愛してる」
「うんっ、嬉しいっ!」

皆、わたしたちは狂っていると言う。
でも、それがどうした?
狂っていても、わたしたちが愛し合っているということに変わりはない。
わたしだって、狂っていると……おかしいと思うことはある。

だけど……。

「オレはテュケーを愛してる。だからよぉ……早く血まみれになって笑ってくれよッ!」

彼の言葉こそ、わたしの幸せであり……わたしの狂気を加速させる呪なのだ。
彼に愛されると、正常とかマトモとか。
どうでもいいんだ。

そうして、迷宮は形成されていく。

運命の輪は、狂っていく。



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