緋の希望絵画 | ナノ

▽ 彼は少年でいる・1





戸叶流火。
色々な意味で多感な中学生だった。
対人恐怖症及び火恐怖症。軽い引きこもり。
好きなものは花。嫌いなものは甘いもの。

……どこにだっているような、少し問題を抱えた少女だった。

ただ私は、画家と呼ばれていた。

画家としての仕事が忙しくて学校には行っていない状態だった。
画家の仕事がなければ、純粋に不登校だと学校側に切り捨てられていただろう。
私には絵があったから、学校からも周りからも見捨てられずに済んだ。
だけど、それが私は嫌だった。
周りが求めて、見ているのは、画家としての戸叶流火。
必要とされているのは戸叶流火の描く絵画。
本当の意味で私を必要としている人間はいない気がした。
そう思い込んで、私はいつも泣いていた。
同情されるのも心配されるのも嫌だったから、誰にも気付かれないように泣いた。
私が泣いているという事は、誰にも気付かれなかった。
私は隠すのが上手いんだなと自嘲するようになった。
そして、これで泣くのは何回目だろうと言う時に、その人は来てくれた。

「気が済むまで泣け」

大和田大亜。
私に色を見せてくれた、始まりの人。

「泣いたらスッキリするか?なら、もう涙が出ないってくらいまで泣いてやろうぜ」

私が泣いている時には、何故か大亜にぃが横にいた。
どうして私が泣くのが分かるんだろう?……大亜にぃには、きっと涙腺感知センサーのようなものが付いているのだ。幼い私は本気でそう思った。

「なぁなぁ、大亜にぃ」
「何だ?」
「私が泣かなくなったら、褒めてくれるか?」

大亜にぃが「泣くな」と言ったら、私はきっと二度と泣かないように努める気がしていた。

「嬉しくないな」
「え?」
「無理して笑われるより、元気に泣いてもらった方が気分いいんだ」
「ええ?」

周りから変わってるって言われていた私だけど、私から見れば大亜にぃの方がずっと変わり者だ。

「大亜にぃの言葉……よく分からん……」

大っ嫌いな数学の公式よりも、大亜にぃの言葉の真意を読み取る方が面倒だった。
しかも、遠回しに言うのはいつも私にだけだった。
ナゾナゾだと大亜にぃは笑うけれど、当時の私にはいくら考えても分からなかった。
私が大亜にぃの言葉を少し理解できるようになったのは、大亜にぃが死んでからだった。

大亜にぃの葬儀で、私は泣いた。
当然だろう。大好きな人が死んだのだから。
人気のない場所で泣いている私に近付いたのは、弟の方の大和田紋土だった。

彼は暗い影を背負いこんだ色で、私に言ってきた。

「泣くな」

と。

たったそれだけ言い捨てられて……私は大亜にぃの優しさを知った。
『泣いていい』というのは甘えだったのだ。

幼い子供にいくら泣き止めと言ったところで泣き止むはずがない。
子供は泣くものなのだ。どんな時だって泣いて訴えるものなのだ。

「……どうして……泣いちゃダメなんだ……?」
「…………」

私の問いに、大和田くんは答えてくれない。
私の疑問は消えることなく残ったが、ひとつの踏ん切りはついた。

甘える私はもういないと。
精神がどれだけ病もうと鬱ろうと……私は甘えるのは止めよう。

甘えることができないのなら、頼ることにしよう。甘えるという名目の、頼りきりを。

精神的弱者な必要とされたがりな彼の強さを描くために……。

私は、大和田くんを守るために甘えずに頼ることにした。
「泣くな」と言われた私にできるのは、大亜にぃの真似事―――。

prev / next

[ back to top ]


×
「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -