緋の希望絵画 | ナノ

▽ 上辺の偽善・1




『キーン、コーン…カーン、コーン』
『オマエラ、おようございます!朝です!7時になりました!起床時間ですよ〜!!さぁ、今日も張り切っていきましょう!!―――あ、そうそう……ちなみに、電子生徒手帳をアップデートしてあるので、お伝えしておきまーす!!校則が追加されましたので、確認しておいてね!より充実した学園生活を今まで以上に楽しんでねー!』

校則の追加……。
昨日モノクマが言ってた『電子生徒手帳の他人への貸与禁止』ってヤツか……。

「……って、そんな事より、さっさと朝食に向かわないと……ダメだよね」

私は支度をして部屋を出た。

「…………」

隣の、大和田くんの部屋の前で立ち止まる。
大和田くんは、今は、そっとしとこうかな……。
まだ、機嫌悪いかもしれないし……。

そう思って私は食堂へと急いだ。

「あ、戸叶ちゃん!おっはー!!」
「お、おはよ……朝日奈さん……。……あ、れ……大和田くん?」

大和田くんは既に食堂に来ていて、席に着いていた。

「……あ?あぁ、おはよう」
「……おはよ……」

……先、来てたんだ。
……私のこと、迎えに来てくれなかったんだ。
あ、いや……一人で来たい気分だったのかもしれないし……。
気にしなくて、いいよね。

「もう、みんな揃ってるの?」
「いんや、十神っちと石丸っちがまだだべ」
「十神白夜はともかく……石丸くんがまだなのは珍しいね」
「石丸君でしたら、遅刻魔の十神君を呼びに、部屋まで迎えに行きましたわ」

あぁ、なるほど……。
それなら、納得だ。

「それじゃ、大人しく待ってろってことか……」
「待つのは構いませんが、1つ問題があるのです」
「……問題?」

セレスさんの深刻そうな顔に私は身が強張るのを感じた。
セレスさんはその顔のまま言った。

「喉が渇きました」
「どこが問題だっつーの……」

……まったくだ。
真剣に聞いたこっちが馬鹿みたいだ。

「山田君、紅茶を入れてくださる?」
「……はい?」
「ミルクティーをお願いしますわね」
「な、なぜ……僕が……?」
「あなたの丸い体系は、わたくしが通っていた喫茶店のマスターにそっくりですわ」

そんな理由、なんだ……。

「喉がカラカラですの。急ぎで願いますわ」
「わ、わかりましたよぉ…」

セレスさんの命令には逆らえなかったらしく、山田くんはしぶしぶ厨房へと入っていった。

そして、数分後。

「お待たせしました!!」

あたりに紅茶の匂いを漂わせながら、山田くんはトレイ片手に戻って来た。
トレイに乗っているのはセレスさん一人分の紅茶だ。
どうせなら全員分淹れてくれればいいのに……。

「うふふ、待っていましたわよ。では、頂きますわね……」

口元に笑みを浮かべながら、ティーカップを手にしたセレスさんだったが……。

「……あら?」

と、小首を傾げると彼女は……突然手にしていたカップを―――か、壁に向かって放り投げた……!?

ガシャーン!

当然、カップは割れた。紅茶が飛び散る。

「えー!?チョイチョイ……何をなさるかウサギさん?」
「わたくし、こういうミルクティーって嫌いなんですわ!」
「え、えーと……理解しかねますが……」

するとセレスさんは、腕を組んですぅと息を吸い、語り出した。

「例えば、その辺の普通の喫茶店で、紅茶を注文するとしましょう……すると、『レモンですか?ミルクですか?』と聞かれる場合がありますわよね?そこでわたくしはミルクティーと答えます。すると、紅茶と共に小さい容器に入れられたミルクが運ばれて来たりするのですが……わたくしは、ミルクティーをいれる際、ミルクを先に入れたい派なのです。その方が、圧倒的に香りがよろしいのです。それに、飲む直前にレモンかミルクを入れるかなんて、調味料レベルの選択肢と変わらないじゃないですか。そもそも、その程度をメニューの選択肢として認めていいのかも疑問ですわ。ですから、わたくしは牛乳で紅茶を煮出すロイヤルミルクティーしか認めていませんの」

……その時の私たちの反応を表現するとしたら…目を白黒させてって以外の表現は見当たらなかったはずだ。

「えっと……せっかく紅茶を作ったってのに……そこまでしろと!?」
「面倒なのは知っていますわ……ミルクティーとロイヤルミルクティーの両方が置いてある店では、後者の方が値段が高いですからね。きっと手間がかかるんでしょう。ですが……手間をかけないで、何がメニューでしょう」
「いや、そもそも……メニューも何も……」

山田くんの消極的な態度に、セレスさんが顔を歪めた。
そして、私は自分の耳を疑うことになる。

「いいから早く持って来い、このブタがぁぁぁ!!!」

セレスさんが、とんでもない暴言を吐いた。

「えーーーーーッ!?は、はいっ!ブタめがすぐに持ってまいりますぅぅ!!」
「うふ。恐喝は便利ですわね」

……私はしばらく、その状況が理解できなかった。
ようやく出来た行動が、大和田くんの腕を掴むことだった。

「今さ……人格、変わったけど……」
「クソ……一瞬ブルッちまったぜ……」
「うふふふふふ……」

セレスさん……やっぱり最初の印象通り、一筋縄じゃいかない人みたいだ……。

ああ、怖かった……。

prev / next

[ back to top ]


×
「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -