▽ ねぇ、見てる?・6
不二咲さんの部屋のインターホンを押すと、間もなく不二咲さんが部屋から現れた。
私と苗木くんの姿を見た不二咲さんは驚いた顔をした。
「流火ちゃんっ?それから苗木くんも……ど、どうしたのぉ?」
「うん、ちょっと不二咲さんに頼みたいことあって……今大丈夫かな?」
不二咲さんは完全に部屋から出て、「大丈夫だよ」と笑う。
「頼みたいことってなぁに?」
「これなんだけど……」
そう言って、私は図書室で入手したパソコンを不二咲さんに渡した。
「ノートパソコン?」
「結構古い型で電源も入らないみたいなんだけど、不二咲さんならなんとかできるかなって」
「……ちょっと待ってね」
不二咲さんはその場に座ってパソコンを開いた。
「うーん……ううーん……」
キーボードをカタカタといじって、パソコン本体も凝視する不二咲さんの表情はいつもの愛らしいものではなかった。
真剣な顔で、真面目な顔で、見ているこっちは思わず姿勢を正してしまう。
「……うん。たぶん、頑張れば電源も入るよ」
「ほんとっ?」
「すぐになんとか出来るものではないけど……大丈夫だよ」
「そっかぁ、よかった〜」
苗木くんも安心したように肩の力を抜いた。
「みんなの役に立てるような情報が入ってればいいね」
「うん!……あっ、でも不二咲さん、無理はしちゃダメだよ。監視の目もあるから、ゆっくりでいいからさ。危ないことはしないでね!」
「わかったよ、ありがとぉ、流火ちゃん。じゃあ早速調べてみるからねっ。頑張ってみるから、待っててね!」
不二咲さんは大事そうにパソコンを抱えて自分の部屋へと戻った。
……無理しなくていいと言ったのに、不二咲さん。
頼られたのが嬉しかったのかな。彼女はやる気に満ちていた。
「……無茶しなきゃいいけど……」
「そうだね……」
「なんか不二咲さんってさ、なんでも一人で抱えちゃいそうで怖いんだよね」
彼女は頼られたい頼られたいのそれだけで、人に頼ることを躊躇する傾向がある気がした。
何が彼女にそうさせるのかは分からないけど、人に頼り馴れていない感じの不二咲さんの脆さは、私を不安にさせる。
「那由多にぃが言ってた。強い人間は人に頼るもんだって」
「戸叶さんのお兄さん?」
「うん。すっごい頭良くてね、国大の模試でも成績優秀なんだよ」
精神科医を目指してて、それで心理学とかいうやつも勉強しているから那由多にぃのお説教はいつも理論だった。
正直真面目にお説教を聞いたことなんてないから何の理論とかは分からないけど、すんなり入ってくるお説教ではあった。
「人を頼ることを覚えなさいってよく怒られた。強い人間になれないって」
「戸叶さんが心配なんだよ」
「それは痛いほどに伝わる」
私が「弱い人間のままでいいんだ」とふてくされると、更に別の理論を持ってくる面倒な兄だが。
「……会いたいなぁ」
念の為に言うが、これはホームシックではない。
動機のDVDのことで心配になっているだけ。
だって、唯一の肉親だから。私の家族は那由多にぃしかいないから。
「んー……苗木くんのそのアンテナがなかったら那由多にぃにそっくりなんだけど」
「アンテナって何!」
「あ、あと背が足りないかな」
「放っておいてよ!」
涙目になる苗木くん。
アンテナも身長も気にしていたのかと苦笑する。
「ごめんごめん。お詫びに今日の夕飯作ってあげる」
「えっ……いや、それはいらない」
「ええー?」
苗木くんに丁重にお断りを申し入られ、今日が終わる。
部屋に戻ったと同時にモノクマのアナウンスが入って、思い知る。
そう、今日が終わっただけなんだ。
また明日がある。
「……」
深いため息が出る。
だがやはり、ため息が出たところで何も変わらない。
「那由多くん……」
兄の笑顔を思い出して、目頭が熱くなった。
ベッドの上で体育座りをして、私は音もなく泣く。
泣いて、いつの間にか眠っていた。
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