緋の希望絵画 | ナノ

▽ ねぇ、見てる?・1




私たちは、体育館へと向かっていた。
いつものように朝を知らせるアナウンスが流れた時に、集合するよう号令をかけられた為だ。
朝食も食べさせずに体育館に集合しろとか何様だと文句は多々あるが、逆らう事なんてできない。
逆らえば、何をされるか分からないから……。

「……今度はなんだろーね」
「さーな……」

私と大和田くんはほぼ同じタイミングであくびをした。
本当なら、あと5分……いや、15分は寝ていられた筈だ。それなのに……。

眠気と苛立ちを内に渦巻かせていた私だが、体育館に入ると、眠気の方はすっかりと醒めてしまった。

軽快な音楽と共に、“それ”は行われていた。

「ハイッ!腕を上下に伸ばしてぇ〜!イチ・ニ・サン・シ…」
「イッチ・ニッ・サーン、シッ!」
「……」

私は両目を何度かこすって、再び視界を広げた。
しかし、光景は変わらない。
スピーチ台の上で体操をするモノクマと、馬鹿なのか真面目なのか両方か、律儀に体操をする石丸くんの光景。
何人かが体の動きを緩く合わせているだけなのに対し、石丸くんの動きはなんとも機敏であった。

「さらに強く上下に、曲げ伸ばしましょーう!全身を緊張させッ、素早さと力強さを身に付けるのだッ!!」

しばらくその光景を見つめながら、ハッと我に返って、私は大和田くんの服の袖を掴む。

「大和田くん」
「何だよ」
「何してんのかな?あれ」
「ラジオ体操、だろ」
「見れば分かるよ。……何で?」
「いや、知らねーけど」
「そんでさ、何で石丸くんは真面目にやってるの?」
「バカだから、じゃねーのか」
「……ははっ。君にバカって言われるとか、終わったね」

目の前で繰り広げられるものに、私は乾いた笑いをこぼすことしかできない。
軽快なラジオ体操の音楽が終わるまでの時間が、本来は2分弱であろうに、私には一時間近くにも感じられた。
体操が終わると、モノクマはご満悦といったような笑みを浮かべた。

「ふぅ〜、やっぱ運動って気持ちいいよね!インドアばっかだと体もなまっちゃうからねッ!」
「君が閉じ込めたんじゃん……」
「細かい事は気にしない……それがマイ生き方……あ、今のボクカッコよかったんじゃない?惚れる?惚れる死ぬ?悶え惚れ死ぬぅ?」
「ウザイです」
「ショボーン…戸叶さん、冷たいっス」

落ち込んだ姿を見せるモノクマに大神さんが深いため息をもらした。

「それで…用件はなんだ?ラジオ体操だけの為に呼んだのではあるまい…」
「ラジオ体操……だけ?だけって言った?ラジオ体操を笑う者は……ラジオ体操に泣くんだぞッ!それに、このモノクマラジオ体操には、さる暗殺拳の極意がみっちり凝縮されているのだ!闇の帝国に代々伝わる、秘伝の暗殺拳がな……」

なんだか中学生が考えたような恥ずかしい設定のラジオ体操に対して、私は鼻で笑ってやった。

「いいから、そろそろ答えなよ。本当に、ラジオ体操の為だけに呼んだっていうの?」
「あらやだ!ボクはそんなにヒマじゃないよ!」
「じゃあ……?」

私が首を傾げると、モノクマはコホンと間を置いた。

「えー、では発表しますッ!この希望ヶ峰学園に、新しい世界が広がりました!」
「新しい世界……?」
「オマエラも、一生ここで暮らしていくのに、なーんも刺激がないと困るでしょ?それに、適度にやる気を与えないと、オマエラみたいなシラケ世代はすぐにブーたれるし!てな訳で…探索はどうぞご自由に。新たに切り開かれた世界を思う存分堪能してくださーいッ!」

相変わらずの一方的な説明だけ残し、モノクマは私たちの前から姿を消した。

それにしても……。

「新しい世界って、何さ……?」

一同が不可思議に顔を歪める。
やはりモノクマの説明は分かりづらい。

「外への出口とかっ?」
「その可能性は低いでしょうね」
「んなモン、調べてみねーとわかんねーだろがッ!!」
「どちらにせよ…もう1度、学園内を探索する必要がありそうだ」
「では、ひとまず手分けして調査だ!!そして、その後で食堂に戻り、調査結果を報告し合おうではないかッ!」
「バカの1つ覚えだな…」
「定番と言ってくれたまえ!さっそく始めるぞッ!!」

石丸くんの言葉を合図に、みんなは体育館から散っていった。
私は大和田くんの制服を軽く引っ張り、彼を少しかがませた。

「ねぇ、どうする?」
「そうだな……玄関ホールでも見てくるかな……」
「期待できないねー」
「だから、見てみねーと分かんねーって」
「まぁそうだね」

大和田くんが「流火は?」って目で私を見た。
私は、一応考える素振りだけ見せて笑った。

「さやかちゃんの様子、気になるから、さやかちゃんと一緒行こうかな。……いい?」
「まぁ……いい」

『いい』って言ってるクセに不機嫌そうな顔だ。

「危ねェことはすんじゃねーぞ。まだ左手だって治ってねーし……あ、それからあんま桑田に近付きすぎるなよ。アイツ―――」
「だから、君は私の保護者かっての!構うな!放っておけ!」

うしろの方でクスクスという笑い声が聞こえた。
さやかちゃんだ。きっと彼女も私と一緒にいたいと思ってくれていた……のかもしれない。

「仲良しさんですね」
「違います」

フンっとそっぽを向いて、私は早足に体育館を出た。
さやかちゃんは楽しげに笑いながら私を追いかけてきた。

そして体育館から出ると、いきなり石丸くんに捕まった。

「戸叶くん!舞園くん!見たまえ!」

声に若干物怖じしながら、私は石丸くんが指さす方向を見つめた。

「……階段のシャッターが、消えてる?」

今まで閉鎖されていた二階への階段が通過された……。
これで、学園の二階に行けるってことだよね。
モノクマの言ってた新しい世界って、こういうこと?

「どうやら学園の2階への道が開いたようだぞ!しかし、そういう時こそ既知の場所を調べる事が重要だ!どうかね、素晴らしい発想だろう?自分でも惚れ惚れする!……では、学園側は頼んだぞ!」

モノクマのように一方的に喋り続けた石丸くんは、寄宿舎エリアの方に歩き出した。
……何だったんだ、一体。

「……」
「流火ちゃん、この先が、新しい世界なんでしょうか?」

……とにかく、私は学園側に集中しよう。
私とさやかちゃんは一緒に二階へと上がった。

「……ここが、学校エリアの2階」

私はぽつりと呟く。
二階も、相変わらず異質な空気だ。
ここに、何か手掛かりがあるかもしれない……。
あったら、いいと思う。

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