緋の希望絵画 | ナノ

▽ 探している答え・3


戦刃さんは、迷っていた。
江ノ島さんに見せしめとして殺されるその瞬間まで。いいや、今だってまだ彼女の色は揺らいでいて、どちらかに傾いているということはない。江ノ島さんへの気持ちも私たちクラスメイトへの気持ちも、同じ量の色が混ざる。黒と白をいくら混ぜたところで、それは灰色だ。

『あたしと同じ超高校級の絶望なら、ちったぁどデカい絶望持ってこいっつーの。胸と同じくらい貧相な絶望持ってきやがってよぉ。戸叶の方がまだ絶望させてくれてたわ』

けっ、と吐き捨てるような声。
江ノ島さんがここに居たら、戦刃さんから私の方に視線を移したと言えばいいのだろうか。
名指しされたことで、思わず背筋が伸びる。

『ま、いいや。こうなっちゃったのは仕方ないしね。対応していこう、対応。適応。あたしは出来る女なのよ。そこの安広さんちの多恵子ちゃんが言ってたでしょ?環境に適応できる者が生き残るとか。そんなだっけ?』

江ノ島さんの声は、なんというか、空気に自然と混ざる毒のようだ。じんわりじんわりと浸透してくる。冒してくる、という表現が正しい。気だるげな声をしているのに、それでも鼓膜を通り抜けて、脳に刻まれるように溶けていく。

『ルールを変えましょう。正真正銘、「今回の学園生活」では「最後の学級裁判です」。あなた方には、この学園から脱出する方法を見つけてもらい、その上で学園から出ていくか学級裁判で話し合ってもらいます』
「え?そ、そんなの……」
「で、出ていくに決まってるじゃない!こんなところ!だ、だってここに残ってたら、また最初からやり直すことになるんでしょ……!?」
『私様は寛大であるのよ!だから、今から一定時間の間、この学園の全ての鍵を解放してあげる!』
「む、無視……無視された……あはは……あたしの言葉は、気にかけるほどのものでもないってことなのね……」

床にぱたん、と膝をつく腐川さん。
既にみんな慣れてしまったのか、特に気にせずスピーカーの方に意識を集中させている。

『みんなにはぁ、「希望」と「絶望」のどちらが優れているかを議論してもらおうかなと思いまーっす!「希望」を選ぶと言うのであれば、みんなには絶望広がる死んだ世界へと帰ってどーぞ世界の更生とやらをしてくださーい!「絶望」を選ぶのなら、おしおきならぬ……留年ってことで!みんなの記憶をもう一度リセットしてやり直してもらいまーっす!希望を選んでも絶望、絶望を選んでも絶望。あれっ?どっちにしても絶望じゃないっ?』

それでも、また記憶を消されてしまうよりは、終わってしまったのだという世界に戻ることの方が私たちには、……少なくとも私には、希望だった。
だって外には、兄がいる。
那由多くんだって、この学園の中が安全とは言えなくなった以上、外の世界だろうと学園の中だろうと変わらないと手紙で言っていた。
それなら、私は外に帰りたい。
みんなと一緒に。

『誰か一人でも「絶望」に投票すれば、その時点で絶望の価値とするから。気をつけてね。ああ、もちろんアタシは投票に参加しないから、安心して欲しいな』
「そ、そんなの、どう考えてもお前に有利じゃね!?戦刃は助けに来てくれたけどよ……で、でも絶望側の人間だったんだろ!?戦刃が絶望に投票する可能性も捨てきれないじゃんか!」
「わ、私そんなことしない。私、盾子ちゃんのことを忘れたくない……っ」
「大丈夫だよ……!みんな、この学園生活をやり直したいと思っている人なんている訳……」

江ノ島さんが提示してきたルールは、不可思議だ。
希望と絶望。
もう既に何度も聞いてきたワードだが、それのどちらが優れているかを議論するなんて。しかも、この学園から脱出する方法を見つけた上でなんて。
自由にこの学園を調べてくださいと言わんばかりの様子には、首を傾げてしまう。

「も、もうそんなの無視してさ、脱出する方法見つけたら帰っちゃおうよ……」
「流火の言う通りだ!黒幕の戯言に耳を貸す必要はないぞ、僕らは早くここを出て……黒幕を警察に逮捕してもらわねばいけない!」
「外の世界が終わっていると言うのなら、警察が機能しているのかもまず微妙なところだがな。だがまあ、今回は俺も戸叶や石丸に同意だ。俺は既にこのゲームから降りると言ったはずだ。今更ルール変更だので覆ることでは無い」

ゲームを放棄するのなら、そもそも黒幕の提案に乗る必要さえないはず。

『いやーでもよぉ、だーいじなクラスメイトがこの学園の謎を解き明かしたいって言ったら、お優しいクラスメイトの皆さんは付き合ってくれるんだろ!?だって仲間だもんなぁ!?』

でも、そうならないのを、黒幕は、江ノ島さんは知っているようだ。

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