▽ 命なんて追い付かず・2
娯楽室に向かう途中。
1階から2階に移動する時だった。
「……ッ!?」
ぐいっと腕を引っ張られた。
不意を突かれた俺は引っ張られた方向へ重力に従い動く。
顔だけで俺を引っ張った人間を見れば、そいつは酷く青白い顔色をしていた。
いきなり何だ何で引っ張ったと怒鳴り散らそうかとも考えていた俺だったが、そいつのそんな顔色を見て、そんな気も冷めてしまった。
「何のつもりだよ……葉隠……」
「おっ、大和田っちぃぃぃ……!」
葉隠は涙目で、何だよ気色悪いなと思った。
しかし、何があったかは知らないが、葉隠に構う暇など、今はない。
「葉隠、構ってもらうんなら桑田んとこにでも行ってろよ」
「そ、そんな、ヒデーぞ、大和田っち!少しくらい俺の話を聞いてくれたっていいべ!?今は誰でもいいから、俺のこの半生を聞いてもらいたい気分なんだべ!」
「俺はテメーの人生に興味ねぇし、誰でもいいんだったらだから桑田や苗木に聞いてもらえばいいだろうが!」
力ずくで俺は葉隠のしがみついてくる手を振り払った。
「悪ぃけど、大神に呼ばれてんだよ。その後は流火と話す予定―――って、葉隠?」
葉隠の顔色が更に悪くなった。
触ろうなんて思わないが、仮に触ったのなら死人のように冷たいのではないだろうか。
「葉隠、どうかしたのか?」
「!い、いや、どうもしない!するわけないべ!あはははははは!」
不自然に顔色悪いまま笑う葉隠は身を翻し、俺から離れた。
「部屋に戻るべ」
……変な奴だとは思っていたが、今日はなんだかいつにも増して変な奴だ。
なんとなく葉隠から目を離せず背中を見ていると、ふいに葉隠は振り返った。
「……大和田っち、」
顔色は悪いのを通り越したようだ。
土人形のようで、まるで生気を感じない。
「……オーガんとこより、戸叶っちの方を先行くんを、俺はオススメするべ」
「はぁ?何だそりゃ。占いか?」
「……さーなー」
葉隠は再び前を向いてとぼとぼと歩き出す。
大神より流火の所へ行った方がいい?
どういう意味だよ。
流火に何かあったのか?
流火が何か言ってたのか?
流火の方が、何か―――。
「……、いや、いやいや、大神んとこ行ってから、だろ……」
優先順位が傾きそうになるのをなんとかこらえながら、俺は階段を上った。
2階から更に3階の階段へと向かおうとしたところだった。
俺はまた変なものと遭遇する。
「ビビバビバビブビー!!」
「……!?」
その変な言葉と変な声と変な女に俺は呆然とする。
目の先には腐川冬子……いや、様子が変だから、あれはジェノサイダーだ。
ジェノサイダーは変なスキップを踏みながら、こちらに向かってくる。
俺は気付かれないよう早々に3階へ向かおうとしたが、ダメだった。
「おいおいおい、無視すんなよ病ンキー!」
「……チッ」
ジェノサイダーは俺に近付き、バシバシと俺の身体を叩く。
「通り道に人がいたらとりあえず話しかける!ゲームの常識だろうが!推理ゲームなら尚更な!」
「これはゲームじゃねぇだろ……」
「そーよ!これはゲームじゃなくて現実なの!現実ですれ違う人間全員に話しかけてたらあっという間に人生終わっちまうっつーの!いいかい、もんちゃん!人生において時間というのは有限で大切なものであり有効に使わなければならないの。そしてもんちゃんはその貴重〜な時間を今あたしに使ってしまったという!さぁてこれは吉と出るか凶と出るか!?」
ハイテンションなジェノサイダーを無視することに決め、俺は歩を進める。
「おいこらぁ!」
そしてジェノサイダーに捕まる。
「何なんだよ、一体!?」
「何なんだよはテメェだろ流火りん独占野郎!話しかけたのなら『何してるの?』って聞くだろ、普通!そんなんだからフラグを逃す萌えねー男なんだよ、この負け犬!」
……この殺人鬼は女だ、だから耐えろ俺。
「……何、してんだよ?」
「生きてるの!」
「……」
「んぐっふっふふ!大丈夫!!部屋に帰る!そして部屋でおとなしく生きてるから!」
「……そうか、んじゃ帰れ」
「ビビバビバビブビーッ!!」
ジェノサイダーがいなくなった後で、俺は深いため息をついた。
流火は普通に喋っているようだったが、どっと疲れた。
あんなのにつきまとわれて、十神も大変だなと……初めて十神に同情をした。
「……もう何もねぇな……」
周りに人間がいないことを確認して、俺は階段を上る。
そこで今度は流火に会った……なんてことがあれば大神に会うという決心も揺らいだろうが、幸いにも流火はいなかった。
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