緋の希望絵画 | ナノ

▽ それが愛か恋として・3




「ええと……戸叶さん、は。大和田クンのことをどう想ってるの?」

戸叶さんが大和田クンの想いに気付いているのは分かった。
だとしたら、次は戸叶さんの想いを確かめてみたかった。
2人が互いを想い合っているのなら……あとは本人たちでどうにかなるだろうとボクは思った。

ボクの質問に戸叶さんは顔を逸らす。
彼女が見たのは桑田クンを始めとして、みんなに何か急かされている大和田クンの姿だ。
何か……その何かが何なのか聞くのは野暮というやつだ。

そして、戸叶さんの解答は……正直であった。

「……よく分かんないよ」

正直故に、ある種残酷だった。

「恋とかさ、そういう気持ちも分かんなくて……。よく分かんないままに彼とその……お付き合い?とか、そういうのって、彼に失礼だと思う」

自分の気持ちは、明確にしたいってことなんだろうか。

恋愛感情かも分からない『好き』で付き合うのは失礼―――戸叶さんの考えはよく分かった。

「……ううん……これは、“好き”なのかなぁ?」
「ボ、ボクに聞かないでよ……」

おそらく、戸叶さんの『好き』がハッキリしなければ彼らの関係に希望は見えないんだろう。
……哀れ、大和田クン。
下手をすれば正式に告白11連敗、しかも本命中の本命に振られるという最悪の記録が付くかもしれない。
なんというか……「ずっと友達でいましょう」的な……。
……戸叶さんだと、そんな選択も自然に下してしまいそうで、少し怖い。

「あ、でも……」
「うん?」

戸叶さんは少し頬を染めながら、花が開くように笑った。

「何て言うのかなぁ……違うんだよね、紋土くんだけ」
「違う?」
「そう。おにぃたちや、君たちに感じてる“好き”とは……違うんだよねぇ」
「えっ?」

……お兄さんたちやボクらに感じている“好き”とは違う。

「……はぁ」

どうしてそこまで分かってて、あと少しが分からないのか。
どうしてそこまで気付いてて、想いに気付かないのか。

「これは、前途多難だね。大和田クン」

まあ、戸叶さんの想いも一応……一応は確認できたことだし。
後は、当人たち次第だ。
上手いこと、上手い関係になってくれればと思う。

「戸叶さん、大和田クンと話しなよ。世間話でもさ」

こんな閉鎖空間で世間話も何もないけど……それでも、彼らには話すことが沢山あるはずだ。
今までの空白を埋めるという作業が、彼らにはあるのだから。

多少文句を言う者はいれど……全員を引きずるようにして、ボクらは戸叶さんを残して大和田クンの部屋を出ていくことにした。
「お大事に」と言ってチラッと見えた大和田クンの表情は落ち着いていた……というよりも、軽く喜んでいた。
やはりボクらは邪魔者だったみたいだ。

「苗木くん!兄弟と流火を2人にして大丈夫なのか!?」
「そうだぞ苗木!あの2人ウジウジと初々してて……見てるこっちがイライラすんだよ!さっさとくっつけよーぜ!!」
「……石丸クンはともかく、桑田クンは完全に面白がってるよね?」

石丸クンの言っている「大丈夫なのか」というのは「被害者加害者の関係を2人にして気まずくないか」って意味だろう。これは問題ない。

「大和田クンと戸叶さんなら、大丈夫だよ」

色々とね、とボクは付け加えて笑った。
うん。大丈夫だよ。
なんだかんだ、2人はお互い分かっているから。
分かっている上で、あの距離感なんだ。

そして、今日の終了を告げるモノクマのアナウンスが響き渡る。

「夜時間か……。……今日はもう帰ろうっか」
「そうですね。また明日もありますから。……皆さんも疲れたでしょうし」

本当に、忙しい1日だった。
疲労感には逆らえなかったらしく、みんなは各自自室に戻った。
……ボクも、部屋に帰ろう。
食堂帰りのセレスさんと山田クンの姿を視界に捉えたのを同時に、ボクは自分の部屋に入った。

山田クン……姿を見ないと思ったら、またセレスさんにコキ使われていたのか。
セレスさんは本当にこの学園に順応しているらしいな……。

十神クンはボクらと関わる気は相変わらずないようだし。
腐川さんは二重人格……しかも殺人鬼であることが発覚した。

この学園生活には本当に“マトモ”がない。

「……あれ、そういえば」

彼女―――霧切さんは、何をしているんだろう。
戸叶さんの騒動の時は一緒にいたのに、あれから姿を見ていない。

彼女は、謎だ。

……戸叶さんなら、“色”ってやつが見えるんだろうか?

……。

考えても始まらない。

もう、寝よう。
また明日、考えよう。

そしてボクは意識を手放した。

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